旅行 その2

 レンタカーを返却した後、予約しておいた駅前のホテルにチェックインする。急に旅行を決めたた普通のビジネスホテルしか空いてなかったが、温泉の大浴場があるので旅行の目的である温泉には入れるので良しとしよう。

 部屋に入ると、思ったよりも広くてきれいな部屋でよかったと思う。

「ダブルなんですね。」

「付き合っているんだからダブルでいいでしょ。さて、お風呂にする、ご飯にする、それとも別のがお好み?」

「食事にしましょう。」

 あっさり、スルーされてしまった。


 ここは温泉の蒸気でつくる蒸し料理が名物なので、それが食べられるお店で夕食をとることにした。お店に入り、生ビールと蒸し料理を数品注文する。

 生ビールがとどき、ひとまず乾杯する。

「仕事終わりのビールもいいけど、旅先でのビールも美味しいね。」

「そうですね。同じビールなのに、美味しく感じますね。」

「ところで、昨日朝来たら清田さんと盛り上がっていたけど、何かあったの?」

「女の子で出勤したら清田さんがいて、どんな下着しているかみたいって言ってきたので見せたり、胸触られたりしていました。女の子同士でじゃれあうって楽しいですね。」

 その話をきいて美紗にはなかなか下着を見せたり、体を触らせたりさせてくれなかったのに、清田さんにはあっさり見せたり、触らせたりするのに、すこしやきもちを焼いてしまった。


 料理が運ばれてきた。海鮮や鶏肉、野菜などの蒸し料理が蒸篭ごとテーブルに置かれた。さっそく、美味しそうな鶏肉を頂く。

「鶏肉が柔らかくて、美味しい。」

「野菜も美味しいですよ。蒸すと旨味がにげないから美味しいですね。気に入ったのなら、レンジでよければ作れるので、今度家でも作りましょう。」

「ありがとう。」

「いままで自分のために料理してきましたが、誰かに食べてもらう料理を作るのって楽しいですね。美紗はこんな料理好きだろうなとか、考えて作っています。」

 通勤で着ている普段の服も誰かに見てもらうために着ている訳ではないが、翔ちゃんに褒めて貰えると嬉しくなる。翔ちゃんが好きそうな服を着ていって、予想通り反応してくれると嬉しく感じる。


 ほどよくおなかも満たされたところでホテルに戻る。部屋に戻り、お風呂に入りに行こうとしたところで、「さすがに、この格好で男湯には入れないので。」と言って、翔ちゃんがメイクを落とし、服を着替え始めた。

「女の子の格好で、男風呂入ってみたら。ドッキリみたいで面白いかもよ。」

「なんのプレイですか?それに美紗はその様子見れないでしょ。」

「今度は家族風呂にあるところにしようね。」

 そう言いながら翔ちゃんが男の格好に戻り、着替えも終わったところで屋上の大浴場にいくために部屋を出た。


 屋上露天風呂は、お肌が滑らかになりそうな弱アルカリ炭酸泉で気持ちよかった。あまりの気持ちよさに、気づけば1時間弱も入ってしまっていた。

 以前同じように温泉に旅行に来た時に、お風呂が長すぎて彼氏を待たせすぎて機嫌を損ねたことを思い出し、あわててお風呂からあがり部屋に戻る。

「ごめん、待たせた?」

 翔ちゃんはとくに待っていたことについて気にする様子もなく、冷蔵庫からビールを取り出し、1本を美紗に渡して、

「お店でも飲みましたけど、お風呂上りにもう1本どうです?」

 風呂上がりのビールも乾杯するために待っていてくれたのも嬉しい。乾杯して、

「待っててくれてありがとうね。」

「お風呂上がりのスキンケアとか、髪乾かしたりとか、女性のお風呂ってやること多いから大変ですね。」

 女装男子だと女性の苦労が理解してもらいやすくて楽だ。翔ちゃんと付き合って初めて気づいたことだ。

 翔ちゃんも私との交際を楽しんでいるようだし、案外バランスが取れているカップルなのかも。




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