店長会議
毎月最終木曜日は、太陽薬局グループ30数店舗のほとんどの店長と、事業部長など重役などが集まる店長会議がある。毎月うんざりもするが、各店舗で働いている同僚と直接会える数少ない機会なので楽しみでもある。
平社員のころは、いろんな店舗で経験を積むという理由だったり、多店舗の応援だったりで、日替わりで複数の店舗ではたくこともあるが、店長、管理薬剤師になると、他の店舗では勤務できなくなるので、他の店舗のスタッフとの交流が急激に減ってしまう。
月1回の店長会議、17時開始で正直疲れるが、そのあと仲の良い同僚と食事にいけるので、毎月心待ちにしている行事でもある。
その日16時過ぎ、来局される患者さんの数も減ってきたころ、
「春本君と清田さん、そろそろ店長会議行ってくるね。」
みんなに声をかけ、休憩室で白衣からスーツに着替える。着替え終わり、薬局を出る時にみんなにもう一度挨拶する。
「ごめん行ってくるね。あとはよろしく。」
「行ってらっしゃい。この後会議お疲れ様です。いつものスカートも素敵ですが、パンツスタイルも似合ってますね。」
交際していることが清田さんに知れて以来、翔ちゃんは二人きり以外の時でも美紗のことを褒めるようになった。
店長会議のある本社会議室に入ると、同期の田中希美がすでにきており、美紗をみつけて手を振ってくれた。席は自由なので、隣に座ることにした。
「美紗、今日この後空いてる?終わったら食事に行こうよ。」
二つ返事で応じる。希美も店長会議の後を楽しみにしているようだ。
店長会議自体は退屈なものであった。事業部長が資料に書いてあることを読み上げていくが、読めば2、3分ですむことなのにと思ってしまう。
内容も毎月ほとんど変わらず、前年比で落ち続ける既存店の売上を、なんとか新店舗が補っている利益構造について説明がある。
その後、契約しているコンサルタントから今後の薬局業界の展望についての話を聞く。
その時々のトレンドの違いはあるが、毎回最後は「このままだと取り残されます。危機感を持って意識を変えて行きましょう。」で終わる。
会議後、近くの居酒屋に希美と一緒に入り、生ビールと料理を数品注文した。
「乾杯!」
先に届いたビールでひとまず乾杯する。
「それにしても、部長の話長いよね。売上下がってますって言われても、現場でできることなんてほとんどないし、売上下がってるなら社用車どうにかしろよ。美紗もそう思うでしょ?」
希美は、最近買い替えた社用車が気に入らないみたいだ。
「500万の車いる?軽自動車で十分だろ。」
税金と同じで、現場で稼いだお金が無駄なことに使われると、腹が立つ気持ちもわかる。
そんな会社の愚痴を言ってある程度気分か晴れたところで、話題を変えてみた。
「希美、最近婚活はどう?」
「もう諦めた。30過ぎるとダメね。この歳で付き合い始めると、結婚せざるをえなくなるから相手も慎重になるよね。そう言う、美紗は?」
噂で伝わるのも嫌だったし、何よりたまにはノロケたい。
「実は、新しく入った春本君と付き合い始めたの。」
希美は、ジョッキに半分ほど残っていたビールを飲み干すと、店員にお代わりを頼んで、
「確か春本君って、年下だったよね?」
「うん、まだ26歳。」
「6歳年下か。色仕掛けで迫ったの?それとも酔わせて既成事実作ったの?」
「向こうから告白してくれたよ。」
正確には違うが、言葉が足りないのはうそではない。
「上手く何も知らない若い子を騙したのか、いいな。私のところにも若い子来ないかな。」
希美から羨ましがられるのも悪い気はしない。流石に、翔ちゃんの女装趣味は黙っておいた。希美は届いたお代わりのビールを勢いよく飲み干して、つぎはワインをデカンタで注文していた。
「ほら、お酒ばかり飲んでないで、料理も温かいうちに食べよう。」
蓮根のはさみ揚げと蕪の餡かけを頂く。蓮根のはさみ揚げは、中のひき肉に梅肉が混ぜ込んであり、蓮根のおいしさを引き出している。蕪のあんかけも生姜風味の餡が少し冷え込んできたこの季節に嬉しく感じる。
美味しい料理を味合うと、今度翔ちゃんに同じ料理作ってもらおうと思ってしまう。翔ちゃんも大体の料理はネットにレシピがあるから、見た目と食材の違いはあるけど近い感じでは作れるって言っていたから、今度お願いして二人で食べよう。
そのあと、先を越された希美を励ましながら、食事を食べ、お酒を飲み良い加減に酔ったところでお開きとなった。
家に戻りお風呂に入って、疲れをいやす。最近、翔ちゃんが掃除してくれたので、気になっていたゴムパッキンの黒ずみがすっきりして気持ちよくお風呂に入れる。
お風呂あがり、翔ちゃんからもらった水切りワイパーで浴室の水切りをして浴室をでる。毎日この1分足らずの手間で、カビが生えにくくなるそうだ。
翔ちゃんのおかげで人生が変わった。思い描いていたカッコいい彼氏というわけではないが、翔ちゃんは翔ちゃんの魅力があって幸せだ。
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