お買い物

 翌朝美紗が目を覚ましてみると、春本君はすでに起きていてベッドにはいなかった。リビングに行ってみると、ウィッグをつけ、軽くではあるがメイクをして翔ちゃんになっていた春本君が朝ごはんを作っていた。

 翔ちゃんの状態だとネグリジェも似合っていてかわいく見える。

「おはよう。ごめん、寝すぎちゃった。」

「おはようございます。ひょっとして、いびきうるさかったですか?」

 翔ちゃんが尋ねてきたが、先に寝た翔ちゃんの体を触って、キスまでしていたのは内緒だ。翔ちゃんの体は、細いながらも筋肉質で引き締まっていた。下半身を触るのは、さすがに自重した。

 それでも久しぶりの男性の体に、興奮してあまり寝付けなかった。


 トーストとスクランブルエッグとヨーグルトの朝ごはんがテーブルの上に並ぶ。

「朝ごはんまでありがとうね。毎朝こんな感じなの?」

「いつもはパンとヨーグルトだけです。卵は美紗さんいるんで特別です。」

 些細なことだが特別扱いされたことに嬉しく思っていたところで、コーヒーも入り、二人で朝食を食べ始めた。

「トースト美味しい。これ高い食パンなの?」

「普通のスーパーで売っているのですよ。焼き方にコツがあって、余熱で温めてからパンを入れます。それで焼くと、中はふんわり、外はカリッとなります。」

「ヨーグルトも美味しいけど、これもなにか特別なことしてるの?」

「特には、何も。一応、自家製ですけど。」

 美紗は美味しく朝食を頂き、食後のコーヒーを飲みながら聞いてみた。

「翔ちゃん、何か運動してる。男性にしては細身だけど。」

「今日はしてないですけど、いつもは毎朝30分ぐらい走って、寝る前に筋トレとストレッチしてます。」

 昨晩の翔ちゃんの体を思いだして、うっとりしてしまう。


 朝食を終えたあと、出かけるために着替え始める。美紗は今日は黒のトップスと白のレースのロングタイトスカートでキレイ目にまとめてみた。

翔ちゃんは、茶色のロングプリーツスカートとボーダーのトップスにベージュのカーディガンを羽織っている。いつもよりも地味な感じもするので聞いてみると、

「あんまり、かわいいの着ると注目浴びて男ってばれそうなので、地味な感じにしてみました。」

 たしかに、ぱっと見どこにでもいそうな感じの20代女性にみえる。


「大丈夫ですかね。変じゃないです。」

 買い物に出かけ駅まで歩いていると、翔ちゃんが小声で話しかけてくる。初めての昼間の外出に緊張しているようだ。

「大丈夫だよ。このまえも駅まで送ってくれたでしょ。」

「あれは夜だったし、昼間はすれ違う人みんなから見られているみたいで恥ずかしいです。」

「意外と他人は自分を見ていないから大丈夫。恥ずかしそうにしている方が変に見えて、余計見られるよ。」

 羞恥プレイではないが、恥ずかしがっている翔ちゃんをみるのもかわいくて好きになってきた。

 今度はピンクとかかわいい服着せてみたいとか、いっそのことミニスカートも履いてもらおうかなと想像してしまう。


「女の子の服って、ポケットがなくて不便ですね。」

 翔ちゃんはバッグから、スマホを取り出し改札を抜けると美紗に話しかけてきた。

「まあ、男物に比べたらね。財布やらスマホとか入れると服の形が崩れるから、ポケットあったとしても使わないな。」

「あと、このバッグありがとうございました。」

 翔ちゃんは女性もののカバンを持っていないということで、美紗の使っていないバッグをひとつあげた。最近使っていないだけに、翔ちゃんが嬉しそうに使っているようなので、バッグも喜んでいるだろう。


 美紗が目的のデパートに入り、いつも利用しているお店に向かった。

「デパートで服買うの初めてだから、緊張します。」

「いつもどこで、買ってるの?」

 美紗が質問すると、ネットや量販店の答えが返ってきた。

「試着とかどうしてるの?」

「やったことないです。店員さんに、話しかけるの怖くて。」


 お店に入ると、すぐに翔ちゃんが

「かわいい服がいっぱいですね。」

 目を輝かせて、早速店内を見て回っていた。嬉しそうに見ている姿をみてお店のスタッフが近づいてきた。美紗は、なじみのスタッフだったこともあり挨拶して、

「すみません、連れは実は男なんですけど、試着とか大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。最近、そのような方増えてますし。」

 翔ちゃんはスタッフの女性から見られて恥ずかしそうにしている。スタッフからプリーツスカートを勧めれて、試着することになった。試着室に向かいながら、

「美紗さん、なんで最初にバラすんですか?恥ずかしいですよ。」

「大丈夫だって。デパートの店員だったらちゃんと教育受けているから男だからって差別することはないし、ノルマもあって買ってもらいたいから気に入りそうなものを勧めてくれるよ。」


 プリーツスカートを試着した翔ちゃんは気に入ったみたいで、購入したことをスタッフに告げる。

「お買い上げありがとうございます。今後もよろしくお願いします。」

 商品を買った後、スタッフに見送られながらお店を後にした。

「いままでコソコソと買っていたから、堂々と買い物するのっていいですね。」

 翔ちゃんは嬉しそうに買った服の入った紙袋を眺めていた。


 帰りの電車の中、美紗は前に座った女性と横にいる翔ちゃんを見比べてて思った。前の女性は体型もだらしなく、服も気を使っている様子もない。それでスカート履いていても、変には思われない。

 翔ちゃんは、体型にも気を付けて、服装も気を使って、メイクもきちんとしている。周りに迷惑かけているわけではないのに、ただ男でスカートを履いているというだけで、変な目で見られてしまう。そんな翔ちゃんをかわいそうに思えてきた。




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