酢鶏と薩摩芋のグラタン
翔ちゃんはエプロンをつけ、料理に取り掛かった。冷蔵庫から食材を取り出し、野菜を切り始めた。
この前は料理が出来上がるまで間、お酒を買いに行ったが、今日は来る途中の買い物で一緒に買ったので、やることもなくテレビを見ることにした。
数分後、翔ちゃんは小鉢とビールを持ってやってきて、
「お腹すいたなら、先に始めて下さい。」
そう言って、翔ちゃんはビールをグラスについでくれた。
「えっ、いいの?」
美紗は小鉢の砂肝をひとつ口の中に入れる。ポン酢で味付けされた砂肝に、唐辛子がアクセントとなっていて、ビールに合う一品になっている。
「美味しい。ありがとう。今作ったの?」
「砂肝茹でて、ポン酢と唐辛子で和えるだけですから。」
翔ちゃんはそう言って、またキッチンに戻り料理の続きを始めた。その後美紗は手酌でビール飲みながら、テレビを観ていたが、ふと同じように晩酌していた実家の父親を思い出す。
1本目のビールを飲み終わった頃、翔ちゃんが出来上がった料理をテーブルに並べ始めた。
「グラタンはもう少しでできるので、先に食べ始めましょう。」
そう言って私の隣に座り、2本目のビールを開けて私のグラスに注いでくれる。
「翔ちゃん、女子力高すぎない?」
「服を選ぶ時も、自分の彼女がこんな服着ていたら嬉しいなって服を選ぶんで、自分の理想の妻のイメージがあって、無意識にそれになろうとしてるんでしょね。」
「そうなもんなんだ。」
「その理想の服を着ているのが、美沙さんです。今日のコーデも、パンツスタイルで大人の女性としての品格を出しながら、トップスのレースとパンツのリボンで女の子らしさもでていて素敵です。」
相変わらず外見のみをほめてくれるが、追及すると余計悲しくなるので、スルーすることにして、ご飯を頂くことにした。
「これって、酢豚の豚肉の代わりに鶏肉つかってるの?初めて食べるけどおいしい。」
「酢鶏って言うみたいです。酢豚もおいしいけど、鶏は鶏で違った味わいがあるんで、私も好きでよく作ります。グラタンもできたんで持ってきます。」
翔ちゃんが、アツアツのグラタンをテーブルに運んで取り分けてくれる。熱いうちが美味しそうなので、早速食べてみることにした。
「これも美味しい。サツマイモの甘さと、チーズの塩気がいいね。」
「美紗さん、美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐があります。」
そう言って、翔ちゃんの髪を耳にかける仕草に色っぽさを感じながら、美沙は3本目のビールを開けた。
美味しい食事も食べ終わり、翔ちゃんは座って下さいと言ったが、このままだと実家の父親みたいになってしまうので、一緒に片づけを始めた。
「今日の料理って、もともとあった酢豚とポテトグラタンの進化版って感じだね。それぞれオリジナルとは違う味わいがあって、美味しいね。」
「そうですね。食材の組み合わせ変えて楽しめるのも料理の魅力ですね。」
「料理昔からしてたの?」
「学生時代からやってましたけど、本格的には給料もらえるようになってからですね。自炊っていっても、割とお金かかるし。」
そんなことを話しながら、片づけも終え、先週はここで帰されたが、今日は秘策がある。
「翔ちゃんゴメン。今からある映画、録画してくるの忘れたからここで観ても良い?」
去年流行ったアニメ映画のテレビ初放送が今日このあと始まる。本当はあまり興味はない映画だが、これを見れば11時ぐらいにはなるので、なし崩し的にお泊まりする予定だ。
ソファに二人並んで映画を観ていると、翔ちゃんの肩に手を回してみる。翔ちゃんといえども男。スキンシップを繰り返しているうちに、その気になってくれるだろう。
翔ちゃんの肩に手をのせたとき、下着の感触があった。
「翔ちゃん、ブラジャーしてる?」
翔ちゃんは恥ずかしそうにうなづきながら、
「レディースの服って胸がある前提で作られているから、ないと変な感じになるんです。あと、ブラジャーしている感じが、今女の子になっているんだという実感がわくので付けてます。」
「ということは、下も?」
翔ちゃんは恥ずかしそうにうなづいた。
「どんな下着?見せてよ!」
「ダメです!」
恥ずかしがる翔ちゃんもかわいかった。まだ夜は長い、徐々に攻めていこう。
映画を見ながら、CMの間に話しかけてみる。
「翔ちゃん、女の子に生まれたかったの?性同一性障害とは思わなかった?」
「かわいい服が着れるということでは、女の子になりたかったですけど、男が好きってわけではないから、多分トランスジェンダーではないと思います。そう思えるまで結構悩みました。」
「翔ちゃんも苦労してるね。で、恋愛対象が女性なら、私のことは?」
「可愛い服着こなせる、美紗さん好きですよ。」
だから外見じゃなくて、中身の私は?と聞きたかったが、ここでCMが終わり一時休戦となってしまった。
また映画を見ていると、美紗の肩に翔ちゃんが寄りかかってきた。この映画は翔ちゃんにとってもあまり興味がなかったみたいで、眠くなってきたみたいだ。
寝顔をみてみると、メイクによって男っぽいところは隠されているとはいえ、女の子としてみるにはぎりぎりのラインだ。でも、私にとってはかわいいと思えるようになってきた。子供をそだてるように、翔ちゃんをかわいい女の子に育てていく楽しみもある。
今までの恋愛とは違う楽しさを感じ始めていた。
「翔ちゃん起きて、メイク落とさずに寝たら肌が荒れるよ。」
映画が終わった頃、美紗は翔ちゃんを起こした。
「もうこんな時間なんですね。また駅まで送りますよ。」
「今日は大丈夫だから、メイク落として寝てね。」
そう言って、美紗は翔ちゃんの部屋をでた。今日もお泊りできなかったが、寝ている翔ちゃんの唇に美紗の唇を重ねたので満足だ。一歩ずつ進むのも、先が楽しみでいい。
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