ジェネリック
次の週の金曜日の夜、美紗はお風呂上りに一週間ぶりに勝負下着をつけていた。先週は結局手をつないだだけで終わってしまい、お泊まりはなかったので出番はなかったが、今週こそ出番があることを祈る。
もしそうなった場合、年上だから私がリードした方がいいのかな?でも、男のプライドもあるのかな?春本君はひょっとして初めてかな?なんてことを考えながら眠りについた。
翌朝いつも通り仕事が始まり、午前中営業の土曜日らしく朝から混雑した時間が続いていた。
美紗はその処方箋をみた瞬間、暗い気持ちになった。患者さんは差別してはいけないと頭ではわかっているが、人間どうしても相性のいい人と悪い人がいる。いま、受け取った処方箋の坂本さんは相性の悪い人で、美紗は苦手としていた。苦手だからと言ってやらないわけにはいかないので、薬の監査、薬歴の確認が終わってから、
「坂本様、お待たせしました。」
美紗が呼び出すと、受付に初老の男の人がやってきた。
「とくに血圧など体調はお変わりなかったですか?お薬の内容は先月と同じです。」
「血圧はいつもと同じで130ぐらいだった。ところで、薬はジェネリックじゃないよね。ジェネリックは効かないから。やっぱり安物はダメだよ。」
「はい、希望通り先発品でお渡ししています。」
そう言って、坂本さんは一つ一つ薬をチェックしていく。これは毎月のことで、薬局がどんなに混雑していようが、気にすることなく納得いくまで薬をチェックしていく。そのチェックをしている間、待っている患者さんからの視線がつらいが、こちらは待つことしかできない。
「お大事に。」
ようやく坂本さんがおわった。とくに何かがあったわけではないが、嫌な気分になってしまう。
あわただしい土曜日も終わり、店舗のシャッターを閉める。毎日この瞬間だけは、一日終わった充実感があり好きだ。
閉店業務を終わらせた後、白衣を脱いで着替える。今日はパンツスタイルにしてみた。ウエストリボンがついているので、パンツスタイルでもかわいらしさがある。白のレースのトップスは透け感があるので、春本君の部屋で上に着ているカーディガンを脱いで、大人の魅力をみせる予定だ。
着替えて外に出ると、春本君が待っていた。
「今日も服かわいいですね。」
「服じゃなくて、私のことは?」
「もちろん、かわいい服を着こなす美紗さん好きですよ。」
今日こそ、大人の魅力というものを教えてあげると美紗は決意した。
春本君の部屋に向かう途中、夕ご飯の材料を買いたいということでスーパーに一緒に入る。スーパーのカートを押しながら、一緒に買い物をしていると結婚しているような錯覚に陥る。とはいっても、食材を選ぶのは春本君でカートを押しているのは美紗。なんか男女のポジションが違う気もするが、料理するのは春本君なので仕方ない。
「美紗さん、国産とか気にします?」
「あんまり気にしない。」
美紗が答えると、春本くんは冷凍食品のミックスベジタブルの安い方をカゴに入れた。続いて精肉コーナーで鶏肉を手に取り、カゴに入れる。美紗はその鶏肉を見て、
「これ国産で、タイ産の方が安いけど良いの?」
「300gで100円しか違わないんで。100円高くても味がかなり違います。冷凍食品は一応大手メーカーだから品質は大丈夫だと思います。」
美紗は、普段買い物する時も安ければそれでいいとしか思っていなかった。値段と品質のコストパフォーマンスなんて、考えたこともなかった。
一瞬ジェネリック嫌いの坂本さんを思い出す。あの人はスーパーでも高い国産ばかりを買っているのだろうか?
買い物を終え、春本君の部屋に入る。冷蔵庫に買ってきたものを入れると、春本君は着替えるために脱衣所に向かった。
数分後、春本君から翔ちゃんに着替え終わり部屋に入ってきた。今日は、共布のリボンのあるワインレッドのスカートと、袖に透け感のあるベージュの長袖ブラウスを着ている。
「ちょっと美紗さんのコーデに、合わせてみました。」
そう照れながら言って、メイクを始めた。先週に比べると慣れた手付きで、
「あれから、練習したの?」
「毎日やってはいますけど、難しいですね。美紗さんみたいには出来ないです。」
「一応10年以上、ほぼ毎日化粧しているからね。眉毛左右で形違うよ。」
メイクを直すために翔ちゃんに近づくと、先週よりもかわいく感じてきた。
メイクは終わっても、翔ちゃんがコーヒーをいれてくれて、一緒に飲み始めた。美紗は、愚痴っぽく仕事での坂本さんのことを話す。
「だいたいジェネリックが効かないって、他のジェネリック飲んでいる患者さんの前で言うの失礼だよね。」
「まあ、そうですけど。」
「それに公費で自己負担ないから、どうせタダで貰うから高い方が良いって理由で先発なんでしょ。あとお薬手帳みたら、別の病院の院内処方でジェネリックの塗り薬あったけど、それは良いの?って聞いてみたい。」
「多分、ジェネリックがなんなのかわかっていないんでしょ。安物イコール悪いものみたいな感覚だと思いますよ。高いから効くと思えば効くから、一種のプラセボでしょうね。」
「そのプラセボはみんなの税金なんだよと言ってあげたい。」
美紗は思ってたこと全部吐き出したら、すっきりしてお腹がすいてきた。
「お腹すいてきた。翔ちゃんそろそろ、ごはんに食べよう。」
美紗がそういうと、翔ちゃんは立ち上がってキッチンに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます