43話 一蓮托生④

 出発してから三時間ほど経った。彪香のことを気遣うのはもちろん、自分も真夜中の運転の経験は無かったため、休憩は多めにとって走行スピードもかなり控えめにしていた。だからこれだけの時間をかけてもまだ俺達は東京の煩雑な道路を走っていた。


「東京凄いね! こんな時間なのにまだやってるお店いっぱいあるよ! 眠らない街って比喩じゃないんだ」

「夜勤のアルバイトとか超大変だろうな」

「もう、ワークホリッカーの視点は夢が無いな~」


 走りながらの雑談も慣れてきた。というか、八割方は彪香が喋って俺は相槌を入れたり質問に答えるだけだから慣れるもくそも無いと言えば無いが。彼女は見るものすべてに感動し、その感動を俺と共有しようとした。元々ほとんど地元を出たこともなく、うちに来てからも移動はサキ姉の車か電車が多かった。——そういえば電車に乗った時も子どもみたいに目を輝かせていた。

 バイクから見る景色は電車とも車とも違う”現実感”がある。体を外にさらしながら直接そのスピードを肌で感じる。耳を通り抜ける風は周りの世界を程よく遮断してくれる。彪香が全く同じことを感じているとは思わないが、少しでも良さを知ってくれたのは素直に嬉しかった。

 東京と神奈川の境、その近くに一般道から入れるサービスエリアがあったので試しに入ってみた。夜行バスなども休憩所として停まるのか、こんな時間なのにそれなりに人が居て驚いた。小腹も空いていたのでフードコートで唯一開いていたうどん屋で夜食をとることにした。


「うまぁ……」

「ん~おいひ~!」


 大手チェーンの讃岐うどんで何度も食べたことはあるが、あらゆる要素が合わさって何よりも最高の御馳走に感じる。彪香もいつも通り本当に美味しそうに食べているが普段よりペースが速い。相当お腹がすいていたのかもしれない。

 二人して文字通りつるりとドンぶりを空にすると、そのままゆったりと雑談の流れになった。


「結城くんは東京の大学志望だよね?」

「んー、そうだな…まだ具体的には決めてないけど、そのつもり。去年までは大学なんて行く気無かったんだけどね」

「去年の秋くらいからだっけ、勉強がんばってるもん。絶対大丈夫だよ」


 ——彪香はどうするんだ。という言葉は喉元まで来て結局外に出ることは無かった。そんなもの本人が一番聞きたいことだろう。

 昔は誰でも将来の夢を語るとき自分に希望をもって思い思いに大それたことを語っていたのに、いつから目に見えないはずの”現実”を見て、親や大人たちの顔色を窺って、不明瞭な将来を選ぶようになったのだろうか。


「そろそろ行くか。日の出見るんだもんな」

「……うん」


 彪香はさっきまでのはしゃぎようが嘘のように悲しげな返事をした。少しずつ、少しずつ別れの時間が近づいている。そのことを考えると鼻の奥がツンと痛むが、気にしないふりをして笛吹の頭をポンと撫でた。


「ほら行くよ。今日のメインはこれからだぞ」

「そう、だよね。うん、行こ!」

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