42話 一蓮托生③
結局行先は最初に思い付きで言った鎌倉、江の島にした。生粋の海なし県育ちで海水浴の経験もない二人では海と言ってパッと思いつく場所がそれくらいしか無かったのだ。
「ねぇ! 凄いねバイク! 風切ってる~って感じ!」
後ろにピッタリとくっついている彪香は初めこそスピード感や不安定さに怯えていたが、ゆっくりとしたスピードで軽く市街を慣らし運転していくうちにすっかり余裕が生まれていた。フルフェイスでもないからそこまで大きな声を出さなくてもいいのだが、なんだか大声を張る彪香が珍しくて面白かったのでそのことは伏せておくことにした。
正直、誰かを乗せて運転することへの重責は意外とすぐに薄まっていった。彪香が軽いのもあるかもしれないが、走り出してみれば普段配達物を運ぶのと運転する感覚自体はあまり変わらなかった。ただどうしても慣れないことが一つあった。
「あの、笛吹彪香さん。あそこまで引っ付かなくても落ちたりしないから大丈夫だよ……こう、服掴むくらいで」
休憩で立ち寄ったコンビニの駐車場で眠気覚ましに買ったコーヒーを飲みながらそう提案したが、当の彪香は「怖いから」の一点張りで結局再出発するときも過剰なほど抱き着いて離れなかった。嬉しい気持ちもあるが色々と、集中できないものがあってなんとも悩ましかった。
「ふふ~♪」
——本当に怖いのか、その真意の程は分からなかったが、彼女が楽しそうにしているならそれでいいかと結論付けることにした。とにかく旅の出だし自体はとくにトラブルもなく、順調そのものであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます