29話 蜂のように舞い、蝶のように刺す①
呼び出しの手紙に応じて約束の時間に約束の場所に向かった。念のため普段は学校に持ってこない携帯電話を持っていつでもサキ姉にSOSを出せるように準備をしている。録音機能もあるし、もしもの時はそれも活用できるかもしれない。
呼び出しの相手はわからないが、タイミングと女子っぽい筆跡から昨日の件のオトシマエを付けようと麻美とその周りあたりが……というのが有力候補だった。だが、遠目から確認する限りそこに居たのは麻美ではなく仲裁してくれたあの小さい女子一人だった。
ということは、オトシマエだの報復だのではないのだろうか。少しホッとして早足でそちらに近づくとその子は昨日とは打って変わって鋭い目つきと偉そうな態度で出迎えた。——人違いでは、ない。確実にあの人だ。
「え、っと……待たせてしまってごめんなさい。昨日は止めてくれてありが——」
「あんた、彪ちゃん——笛吹彪香と付き合ってんの」
「——とうぇ!?」
「とうぇ!? じゃないわよ。さっさと答えなさいよ」
——この人こわっ……!
昨日の優しい雰囲気は気のせいだったのだろうか。とにかく圧が強い。今も「どうなの」と容赦ない追撃をかましてくる。とにかく質問に答えるしかないだろう。
「付き合っては……ないです」
「”は”? つまり……彪ちゃんとは遊びってことね。よし、殺す」
「ちょ、ちょっと待って、どういう思考回路でそうなった!?」
この人が何を言っているのか、何が目的なのかほとんど読めなかったが、とにかく笛吹関連の話であることとこの人が笛吹に対して何らかの激しい感情を持っていること。そして俺はどうやらここで殺されるらしい。
俺の頭一つ分以上小さい女子に胸ぐらを掴まれる日が来るとは思わなかった。
「一昨日の夜にあんた、彪ちゃんのこと家に連れ込んだでしょ。遠目にだったけどあんたも彪ちゃんも目立つから間違える訳ない。家に連れ込んでおいて付き合ってもないってことは……そういうことでしょ。だから殺すの。彪ちゃんを汚したあんたを殺して私も死ぬ!」
「な——っ!」
なるほど、状況が読めてきた。この人と笛吹の関係は分からないが、少なくともこの人は笛吹を大切に思っている。そして一昨日、つまり笛吹が我が家に来た日の夜、俺と一緒に家に帰るところを目撃したのだ。
しかしそうなると困った。この人が見た光景に関しては確かになんの誤解もないし、家庭の事情でうちに居候していると素直に言ってもさらに燃料を投下してしまうだけに思えた。
どうしようかと頭を超回転させても良い案は浮かばない。ダメもとで真実を言って釈明しようかと思ったところで体育館の方からどこかで聞き覚えのある男の叫び声が聞こえてきた。
「ちょ、蝶野ー!? お前何言って!……って蜂谷!? ……なんだこれスキャンダラスにも程があるだろ。どういう状況だよ」
「昨日の……! と、とりあえず助けて! 初対面の女子と心中は嫌だ!」
突如現れた空手だか柔道だかの道着を着た男子に蝶野さんは引っぺがされた。男子は昨日校門で俺の独り言に反応してきたあのスポーティな生徒だった。
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