30話 蜂のように舞い、蝶のように刺す②
「昨日は驚かせて悪かった。俺は
「い、いや、昨日は俺の方こそ逃げちゃってごめんなさい。人見知りで……。蝶野さんも、なんか、ごめん」
天道くんは服装通り礼儀正しくきびきびした動きで謝罪をした。蝶野さんの頭も無理やり下げさせている。なんだかシュールな光景だった。天道くんは見た目こそガタイが良くていかにも高圧的だが喋ってみると気さくで優しくてとても話しやすい人だった。パッと見の印象が真逆の二人組はなんだか凸凹でありながらもお似合いな感じがした。
ともかく、蝶野さんの腐れ縁だという天道くん立ち合いのもと再び会談が再開された。
「私も頭に血が昇った。悪かったわ。——それはそれとして、彪ちゃんを家に連れ込んでたのはどういう了見? 答え次第では絞める」
「(締める……!?)えっと、言い訳じゃないんだけど、ちゃんと説明させてほしい。少し長くなるし、喋り下手だけど、いい……ですか?」
「ええ、ちゃんと聞くわよ」
今度こそしっかりと話しを聞いてくれる雰囲気になった。信じてもらえるかどうかは分からないが要点に絞って笛吹が我が家に住むことになった経緯を丁寧に説明した。蝶野さんも天道くんもあまりに俺が必死に喋るからか、途中で口を挟むことなく最後まで聞いてくれた。
「——つまり、彪ちゃんを保健室に連れて行ったら寝落ちしてしまい、その間に養護教諭の従姉が療養のためだと家主の了承もなく彪ちゃんをあんたの家に連れ込むことが決められて、あまつさえ彪ちゃんもそれを受け入れて今も同じ家で寝食を共にしている——と……なによその超展開。乙女ゲームでももうちょっと段階踏むわよ。馬鹿じゃないの」
「俺も今説明してておかしいなとは思いました(この人乙女ゲームとかやるのか、意外)」
「養護教諭ってあのずっと微笑んでる美人の先生だろ? 確かに蜂谷って苗字だった気がする。確認取ればすぐバレる嘘もつかないだろうし、マジなんじゃねーの(蝶野って乙女ゲームやるんだ)」
蝶野さんは納得がいかない……というよりはいけ好かないとでも言いたげな睨み顔で俺を凝視している。
「まぁ、とにかく俺もある意味巻き込まれた側というか……そんな感じなので帰して
「……その割に昨日は随分彪ちゃんの肩持ってたわよね。私あんたが教室で誰かに話しかけるのすら初めて見たわよ」
痛いところを突かれた。どう弁解しようかと考えていると天道くんが横から疑問を投げかける。
「昨日?」
「HRの前に麻美がこいつと彪ちゃんの仲を邪推する感じの発言したのよ。最初はスルーしてたみたいだけど彪ちゃんの悪口聞いた途端『訂正しろ』って麻美に詰め寄ったの『俺のことは何言ってもいい』とも言ってたかしら」
「へー、かっこいいじゃん。蜂谷ってスカした奴かと思ってたけど結構男らしい……ん、でも確かに話かけただけで逃げ出すような奴がそこまでして笛吹の肩持つのはちょっと違和感あるか」
「……なるほど、あんたの片思いか、そうでしょ」
蝶野さんは意を得たりと言わんばかりにしたり顔で詰め寄ってきた。
片思い——その言葉でつい昨日の夜のことを思い出してしまう。やはりあの胸の高鳴りと息苦しさは……。
「……いや、待ってくれ。確かに笛吹と話してると楽しいし、俺の作った飯めちゃくちゃ美味しそうに食べてくれるのも可愛いし、微笑みかけられると胸がギュってなるけど……全然、好きとかでは——」
「「いや、めっちゃ好きでしょ(だろ)」」
二人の声が見事なハモリで突き刺さる。他人にもここまできっぱりと断言されてしまっては、やはり認めるしかないのか。
「やっぱり、俺笛吹のことが……うわぁ、マジか。うわ、これが恋?」
「なんだこいつマジでムカついてきた。これがBSSってやつね……! 脳みそが破壊される……」
蝶野さんが何を言っているのかはよく分からなかったが、とりあえず俺に対して相当なヘイトを抱えていることだけは分かった。初めの印象よりも親しみやすさは増してきたがスタートがマイナスなので怖いものは怖い。むしろ怖さのベクトルが少し変わった。
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