第17話 高台にて(ルコラス視点)
「嫌だ! 離してくれっ!」
リネットさんからの明確な拒絶。言葉だけでなく俺から逃れようと彼女が暴れるため俺は抱きしめる力を緩めた。
ここまで嫌がられるのはショックだ。俺のことが好きだと言っていた記憶の中のリネットさんは虚像だったのだろうか。そうは思いたくない。
「……どういうつもりだ」
俺から離れた彼女は低い声で言った。唇を噛み締め、こちらを睨む様はどう考えても怒っている。
「抱きしめたいと思ったから抱きしめました。どうして怒るんですか」
下手なことを言ったら油に火を注ぐことになる。俺は素直に答えてなぜ彼女が怒っているのかを尋ねた。
「復讐のつもりか。気のある素振りを見せて期待させて弄んでいるのか」
そんなつもりは全くない。
確かに正気に戻った直後は彼女に対して怒りを感じていた。しかし今は違う。思い出していく記憶の中で見たリネットさんが可愛らしくて愛おしくて仕方がない。実際に自分の目でそんな彼女を見てみたい。
そしてその言葉を聞いてこれまで彼女が取っていた態度の理由が分かったような気がした。
リネットさんは俺が彼女に好意を持っていることに気付いていない。洗脳したことがバレたことで俺に嫌悪されていると思っている。
早く誤解を解かなければと口を開こうとした時、リネットさんが涙を流し始めた。
「ちが、そんなつもりじゃない!」
「だったらどういうつもりだ。お前にとって私が恋愛対象でないことくらい知っている」
慌てた俺は彼女の腕を掴んで否定したものの彼女は聞き入れてくれない。
感情の抑えが利かなくなっているようで彼女は泣きながら俺に謝罪をする。
「私の体が目当てなら甘んじて受け入れる。だからもう期待させるようなことはしないでくれ」
そんな悲しいことを言わないで欲しい。
どうすれば話を聞いてもらえるのかと考えるも俺自身も動揺していて言葉が出てこない。
「それでも愛して欲しかったんだ」
震える声で言うリネットさんを俺は抱きしめた。
抵抗する彼女を今度は離さず腕の中に閉じ込める。
それから俺は正気に戻ってから考えたことを彼女に伝えた。
正気に戻ってすぐは魔道具の実験台にされたと思ったこと、洗脳されている間のことを思い出していくとそうではないのではと思ったこと、しかしその記憶が本物か判断付かなかったこと。
リネットさんを抱きしめる力を緩めて彼女を見つめる。
「でも、リネットさんの反応を見て信じることにしました。俺もリネットさんのことが好きです」
俺は微笑んで彼女に告白をした。
彼女は驚いたように目を丸くする。
残念ながら俺の告白を彼女は信じてくれなくて、俺のその感情は【レハロフの腕輪】が壊れたことによる不具合のようなものではないかと聞かされる。
そして再度謝られた。
俺からすると腕輪の効果ではないと思う。
泣いている彼女を抱きしめて頭を撫でながらどうすれば分かってもらえるか思案する。
それなら責任を取って欲しいと言ってみるかとも考えてみるが、彼女を追い詰めることになりそうで止めた。
少なくとももう少し落ち着いてもらわないといけない気がした。
「実は俺、ギャップ萌えなんです」
リネットさんが知らないであろう言葉を告げる。
体を少し離すと彼女は恐る恐るという様子で顔を上げた。
案の定、リネットさんはキョトンとしていた。
感情というのはある程度は別の感情で上書きができる。
例えば悲しいことがあって落ち込んでいた時に突然服が破れて全裸になってしまったとする。悲しかったことなどは吹っ飛んで羞恥心に満たされるだろう。
思った通りには行ったが、せっかくの雰囲気も吹っ飛んだような気がする。
もっと突拍子もない行動や言葉をかけた方が良かったかもしれないが、幸いにもリネットさんの思考は別の方向へと向いてくれたようだった。
これで悲しみや罪悪感に支配されていた感情は少し薄まっただろう。
「恋愛対象外だなんてとんでもない。思い出していく記憶の中で普段は無感情的なリネットさんが俺に甘えてくる姿がたまらなくなりました」
リネットさんの思考が戻る前に畳み掛けるようにどんなところが良かったかを伝える。
俺の知っていたリネットさんは冷静で取り乱すことなどない人だった。そんな人が俺の言葉や行動で感情的になっていることが嬉しかった。
仕事では自信満々といった様子なのに、不安そうに俺の反応を見ていたり甘えてくれたことが衝撃的だった。
「俺のために着飾ってくれたり慣れない口調で話そうとしてくれたり。愛して欲しいと縋り付いてきたり」
もう本当に愛おしかった。
俺が言葉にして伝えれば彼女は顔を赤くしていた。
「そうやって顔を赤くするところも可愛いです。愛しています。リネットさん」
彼女を見つめて再び想いを伝えれば、少しの間があったもののようやく俺の想いを受け入れてもらえた。
「――洗脳したくなるほど愛している」
彼女も俺を見つけながら告白をしてくれた。
「とても情熱的な告白をありがとうございます」
俺はその告白が嬉しくなり彼女に顔を近づけた。
彼女も目を閉じて俺の口付けを受け入れてくれた。
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