第16話 デート再現日(ルコラス視点)

 リネットさんの家へ行ってから何日か経った。俺は自分とリネットさんの休日を確認してから彼女の私室へと行った。


「この日、リネットさんも休みですよね。初めてデートした時のことを再現したいので服装など準備してきてください」


 作業をしている彼女に近づいて手帳のカレンダーを指で示す。

 彼女は手帳を見ると了承した。


 その瞬間に軽い頭痛と記憶が蘇ってきた。


 その記憶の中ではリネットさんをデートに誘えたことが嬉しくて、その勢いで彼女の右手を両手で包んで告白している俺がいた。

 自分が告白しているシーンを強制的に見せられるのはきつかった。


『ありがとう。私もルコラスのことが好きなんだ』


 俺の告白に彼女は少し顔を赤くしながら微笑んで彼女の手を包む俺の手に触れた。


 そして記憶の中の俺は彼女を抱きしめた。彼女は驚いたのか、緊張していたのか固まっていたがやがて俺の背中に両腕を回した。


『愛してくれ』


 そのまま抱き合っていたら彼女に名前を呼ばれた。返事をしたらそんな言葉が聞こえた。

 俺は彼女を強く抱きしめてから体を少し離してから彼女に愛を囁いて口付けをした。


 口付けの後、彼女を見たら真っ赤になっていた。


 俺よりもよっぽど技術を持っていてどこででも働けるような人だ。そんな人が俺に愛を乞い望んでいる。

 可愛くないわけがない。彼女に求められることが嬉しい。必要としてもらえていることが嬉しい。

 なぜこんなにも彼女は俺のツボを押さえているのだろう。


「何か気に障ることを言ってしまっただろうか」


 現実の彼女に声をかけられたことで我に返る。

 俺はすぐに部屋を出ることにした。




 デート再現の当日。

 記憶にはないものの恋人とのデートという条件で考えればどんな服を着たか想像ができた。準備を終えるとリネットさんとの待ち合わせ場所である噴水のある広場へと向かう。

 俺が到着してから少ししてリネットさんがやってきた。

 灰色のロングスカートに黒色の服、その上に白色の薄手の羽織ものを着ている。化粧もしていて普段は後ろで1つに括っている髪も下ろしている。


 そんな彼女は途方もなく可愛らしかった。

 何より、普段はしないであろうおしゃれを自分のためにしてくれたことが嬉しい。

 記憶の中の自分も同じようで綺麗なことはもちろんのこと自分のためにおしゃれをしてくれたことに感激しているようだった。


 しかし今の自分は彼女に声をかけられなかった。褒めたところで元になったデートを再現しているだけだと思われることが容易に想像できた。それでも何か言った方がいいのではないかと思ったが言葉が浮かばない。


「……行きましょうか」


 そして俺の口から出てきたのは気の利かないそんな言葉だった。

 後悔しても訂正する言葉が思いつかない。


「デートの時は手を繋ぎながら歩いていたんですか?」


 記憶の中の俺はリネットさんに手を差し出す。


「だったら手を繋ぎましょう。その方が思い出しやすいかもしれません」


 肯定が返ってきたので提案をしてみれば彼女は躊躇いながら俺の手に自らの手を重ねた。


 嘘ではない。ただ、彼女と手を繋ぎたいという想いもあった。

 彼女の手は女性らしくとても柔らかかった。


 リネットさんと手を繋ぎながらメモに書いてあったデートで回った場所を服屋、魔道具の市場、装飾品の順番に訪れる。


 俺の知らない記憶を思い出す中で俺とリネットさんはお互いに着せたい服を選んで購入したり、リネットさんからの説明を受けて魔道具を買っていた。さらに装飾品の販売店ではネックレスを購入し彼女の首に付けていた。


 記憶の中のリネットさんは少しぎこちないものの笑顔を見せ楽しそうにしている。


 しかし今の彼女にそんな様子は微塵もない。嫌そうにはしていないが楽しそうでもない無の表情。

 店を回っている間、彼女は一言も話さなかった。

 俺も何を言えばいいか分からなかった。


 装飾品の販売店を出た時、辺りはまだ明るかった。記憶の中では夕方になっていたがそれぞれの店にかかった時間が短くそれも仕方のないことだ。


 俺は最後のデートスポットへと向かった。

 お気に入りの場所でその高台からは町を一望できる。日中でも眺めはいいが、デートで来るなら夕方が1番だと思っている。

 階段を上がって高台まで到着する。記憶の中にあるように柵へと近づきそこからの景色を眺めた。


「……もういいか?」


 そこまで大きな声ではなかった。それでも辺りが静かなこともあってはっきりと聞こえた。


「もちろんこれで終わりという意味ではない。今日はという意味だ」


 彼女は手を放してそう言った。


 記憶の中では俺がリネットさんを抱きしめて愛を囁いている。

 そして彼女に抱きしめ返され、俺を見上げた彼女に口付けをした。


 しかし今のリネットさんは服装や化粧といった装いは記憶の中と同じだが態度や表情はまるで違っている。


 彼女は俺のことを好きなんじゃないのか。

 俺が彼女を脅すようなことを言ったから怖がられた?

 強引に彼女に口付けをして服を脱がせたから嫌われた?

 だからもう一緒に居ることが嫌になったのか?


 だったら、どうすれば彼女はまた俺を好きになってくれる。

 こんな状態で彼女と別れたくない。


 気が付くと俺は彼女の腕を掴み、引き寄せて抱きしめていた。

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