第14話 正気に戻ってから(ルコラス視点)
前書き
ルコラス視点は番外編にしようかと思っていたのですが、本編でも差し障りがないため本編に追加する形にしました。
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何が起きたのか分からなかった。
気に入ってずっとつけていた腕輪が割れて落ちた音で目が覚めたような感覚だった。
なぜか俺はリネットさんとデートをしていた。記憶の中の俺はリネットさんのことがとても愛おしくて彼女のためならどんなことでも出来ると思うほどに彼女に酔っていた。
今の自分から考えるととても有り得ないことだった。
状況から考えて彼女が俺に何かをしたことは確実だった。
地面に落ちている腕輪に視線を向けると彼女に付けられたことを思い出す。
付けただけで人を洗脳できるような物は魔道具をおいて他にない。
「――アンタ、最低だな」
そう言うと彼女は目を逸らした。
目を逸らすというのはそういうことだろう。
彼女は俺を操って楽しんでいたんだ。
魔道具の効果を試すために俺を使ったのか。
感じた苛立ちのまま怒鳴りたくなるが一刻も早く彼女から離れたかった。
何かに使えるかもしれないと壊れた腕輪を拾うと自宅へ向かった。
怒りが収まるはずもなく乱暴に鍵を突っ込んで扉を開けて家に入る。
舌打ちをして椅子に座ると念のために回収してきた腕輪を取り出す。
腕輪は面白いくらいに真っ二つに割れていた。
冷静に考えるためにも落ち着くこうと風呂に入った。
入浴を終えてベッドに座ろうとした。
『好きだ』
フラッシュバックというのだろうか、ベッドを見た途端に知らないはずの記憶が思い出された。
普段は無表情で声の抑揚だってあまりない。
何を考えているか分からず、彼女を嫌う者からは鉄仮面女とさえ呼ばれている。
服装と喋り方も女性らしくない。
俺にとってリネットさんは個性的ではあるがただの魔道具鑑定人だった。
別に嫌っているわけではないが、特に親しみも感じていないのであまり気にしていなかった。
それでもたまに話していたのは魔道具に関しての話は面白いと思ったからだった。
はっきり言って恋愛対象外だ。
そんな彼女が、女性的な服を着て化粧をし顔を赤くしながら俺に抱き着いていた。そして目を潤ませ恥ずかしそうにしながら俺を見て言った。
その言葉にも必死さが滲んでいた。
記憶の中の俺は嬉しくてたまらなくて彼女に口付けをして彼女の服に手をかけている。
「嘘だろ……?」
戸惑っている彼女に迫り、こともあろうかそのまま体を重ねていた。
初めてだったのだろう、彼女は俺のすることにただただ翻弄されていた。
記憶の中の彼女は別人なのではないだろうかと思うほどに俺の知るリネットさんではなかった。
だから記憶までおかしくされているのかと考えた。
それでも、俺に好意的な言葉や態度を取る記憶の中の彼女は愛おしかった。
誰だって好きだと言われたら悪い気はしない。
俺はこの記憶が本当なのかどうか知りたいと思った。
だから調べることにした。
しかしその前に爆発騒ぎを起こした犯人が捕まったのかどうかを調べよう。
衛兵に確認するまでもなく出勤すれば事件についての情報が入って来た。
どうやら犯人はウォルコットさんでリネットさんに嫉妬して亡き者にしようとしたらしい。
彼は捕まったようで現在は拘置所に収容されているとのことだ。
確かに彼はここ数年どこか焦っているようだった。定時を過ぎても業務を行っているが結果は思わしくなく、作業速度もあまり早くなくミスなども目立っており所長からも注意されていた。
リネットさんよりも鑑定人としての経験年数が長いにも関わらず、彼女の方が技術力が高かった。
努力をしても報われない。彼にはリネットさんが眩しすぎたのかもしれない。
リネットさんの方はというと熱心に泊まり込んでまで仕事に取り組むようになった。
普段も泊まりで作業をすることはあったがここまで続いたことはない。
資料を持って彼女の私室を訪れたら酷い顔色だった。
普段から不健康そうだと思ってはいたがここまで憔悴している彼女は見たことがなかった。
リネットさんは部屋へ入った俺を見ようとしない。まるで俺など存在していないかのように作業に集中している。
今の彼女と昨日の夜に思い出した彼女とは似ても似つかない。
やはり記憶を良いように書き換えられたのかもしれない。
「研究資料としてまとめなくていいんですか? 効果を知りたくて俺で実験したんでしょう?」
こちらを見ない彼女に苛立ちを感じてつい酷い言い方になってしまった。
彼女は何も言わない。
埒が明かない。
苛立ちが募る。
洗脳されていた時のことを思い出すためには彼女と一緒に行動した方が良さそうだ。
それに一緒に居れば本当のことが分かるかもしれない。俺は彼女を脅すことにした。
「……何が望みだ?」
ようやく彼女は俺の方を見て望みは何だと問いかけてきた。
無表情で抑揚のない声。
いつものリネットさんだ。
「俺の言うことを聞いてください。嘘も無しです。俺のことを好き勝手にしたんだからこれくらい従えるでしょう?」
わざと責めるような言い方をしてその上で罪悪感を刺激するように言ってから俺は彼女に微笑んだ。
それでも彼女は表情を変えることなくただ了承しただけだった。
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