第12話 思い出し作業
休憩時間に洗脳したルコラスと行ったことを思い出せる範囲でまとめたメモを用意した。ぼかしている部分はあるが聞かれた時に答えることにする。
その後は定時まで作業を行った。
定時を過ぎた直後にルコラスが部屋までやって来た。
私もちょうど片付けが終わったところだった。彼にメモを手渡し内容についても軽く説明した。彼はさっとメモに目を通した。
「出来そうなことからすることにします。まずはリネットさんの自宅へ行きたいです。今日行くことは可能ですか?」
そう言って彼はメモを懐へとしまった。
私は了承した。
「じゃあ行きましょうか」
彼の言葉に一緒に出るのか? と疑問に思っていると彼はさっさと部屋から出て行ってしまった。一緒に出ていくと変に勘繰られたら彼にとってマイナスだろうと思って少し時間をずらすことにした。一緒に出る時は他の職員が居ない時なので状況再現にも引っかからない。
「何で来ないんですか?」
しかし1分もしないうちにルコラスは戻って来た。
「今は定時終了直後でまだ職員がいるから少し時間をずらそうと思っただけだ」
状況再現にも関係ないことを言ったが彼は納得していないようだった。
「別にそれくらい誰も気にしませんよ。一緒に来てください」
そういうものなのかと思いながら私は彼と一緒に1階へと下りていった。
普段と同じように挨拶をして職場を出る。
キャロがこちらをじっと見ていたような気がするが本当に良かったのだろうか。
それから私の自宅まで特に話すこともなかった。
鍵で玄関の扉を開けて中に入り相手を迎え入れる。
ルコラスは興味深そうにキョロキョロとあちこちを見ていた。
リビングへやってきてキッチンの方を見ると軽く頭を押さえて顔を歪ませる。大丈夫かと声を掛けたいが声を掛けていいのか分からない。
彼はキッチンから食卓へと視線を移していた。
「……俺に出した料理を作ってください」
ひと息ついて頭から手を離したルコラスは家で一緒に夕食を食べた時と同じ椅子に座った。
私は言われた通りに以前彼に出した料理を作ってから椅子に座った。
彼と一緒に夕食をとる。
「会話も再現するのか?」
「必要そうだと思ったら俺から言うので今のところ不要です」
他の会話はなく夕食を食べ終えた。
「……ワインを用意してください。用意してくれるだけで飲まなくても大丈夫です」
彼の言葉に従って私はワインとワイングラスを用意した。自分の分と相手の分で2つのワイングラスを用意してワインを注ぐ。
「寝室を見たいです」
少しの間食卓を眺めていた彼が次の要望を出したので私は大人しく従った。
寝室までやってくると彼はベッドを眺めた。
しばらく無言でベッドを眺める彼の後ろ姿を見ながら私も何も言わずに待つ。
「リネットさんにとって都合の良い嘘の記憶を俺に吹き込んだりしましたか?」
振り返ったルコラスに尋ねられる。
「……通常の状態に戻った時に洗脳されている時の記憶は都合が良い出来事に差し替えていたはずだ。だがどのように差し変わったのかは私にも分からない。気になることがあるなら素直に答える」
「つまり、洗脳している状態の時には記憶の差し替えは行っていないと?」
「そうだ」
私を好きな状態からそうでない状態に戻った時に空白の時間が出来てしまうためその空白の時間を補填して通常の状態で違和感がないようにした。しかし私を好きな状態の時に嘘の記憶を吹き込んだことはない。
信じてもらえるかは分からないが。
「俺のこと好きなんですか?」
彼の声にからかいなどは感じられず確認のためという印象だった。
その問いかけに私は内心でパニックになった。
どう答えればいいのか分からず無言になる。
「答えてくださいよ」
そう言って彼は視線を落としていた私の顎に親指を添え私の顔を上げさせた。
真正面から見据える彼はとても真剣な顔をしていた。
「……だったらなんだ」
私はそれだけをぽつりと答えた。
「いえ、気になったので」
彼が私の顔から手を離してほっとしていると腕を掴まれ引っ張られた。
気が緩んでいたこともあって抵抗できなかった。
私はベッドの上に座る形になった。慌てて立ち上がろうとした時にルコラスに両肩を掴まれベッドの方へと押されて倒れてしまった。
「何を……」
するんだという言葉が出る前に私は口付けをされて口を塞がれていた。
驚いていると唇を割って彼の舌が私の口の中に入って来た。
それは彼と体を重ねる時に彼が最初にすることだった。
それだけでなく彼は私の服にも手をかけていた。
混乱しながらも彼の体を押して距離を取ろうとする。
両手で押すと彼は抵抗なく離れてくれた。
「何を考えている」
「俺のこと、嫌いじゃあないんでしょ? それとも嘘だったんですか?」
ルコラスは私を観察するように見下ろしながら言った。
もちろん嘘ではない。
彼の体を押していた手を下ろした。
初めて体を重ねた時とは違って彼は始終私を観察するように冷たい目だった。
口付けを行っても彼からの言葉はない。
その差がはっきりと分かってしまう分、ただひたすらに虚しい。
彼がどうしてこんなことをするのか分からない。
そういう行為の相手に私が手頃なのだろうか。
「……もういいです。帰ります」
彼は私の裸を眺めてからそう言ってそのまま玄関へ向かって行く。
ルコラスが帰る。
これ以上、失望されたくない。
私は服も着ずにルコラスを追いかけた。
「し、したいならすればいい。私にできることなら従う。償いをさせて欲しい」
少しでも償いがしたい。
「いえ、帰ります」
ルコラスは足を止めたものの振り返りもせずに家を出て行った。
結局、私は深い口付けを少しと裸を彼に見られただけだった。
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