第10話 最後のデート
最後のデートの日がやってきた。
互いに休日の日となると日が空いてしまうため私が休日の日、仕事が終わったルコラスと待ち合わせることになった。
彼の選んでくれた服を着て精いっぱいのおしゃれをして最初のデートの時と同じところで待つ。
前回と違うのは日が暮れていることだ。
「お待たせしてすみません。今日もとても可愛いです」
約束の時間の前にルコラスは待ち合わせ場所へとやってきた。
「大して待ってないわ」
私はそう言うと勇気を出して彼の手を取り歩き始めた。
「今日はどこへ行くんですか?」
「劇を見ようと思ってるの。以前ルコラスが好きだと言っていた小説を劇として行うと聞いたから一緒に行きたいと思って」
「もしかして『冒険者ラルフと指輪の悪魔』ですか?」
彼は驚いたように目を丸くする。私は肯定した。
『冒険者ラルフと指輪の悪魔』の劇は今日から行われる。
「凄く楽しみです。見たいと思ったんですがチケットを取れなくて」
私がチケットを取れたのは偶然だった。
『冒険者ラルフと指輪の悪魔』の小説を買おう書店を訪れた時に劇を行うことが宣伝されていた。店員に尋ねるとチケットの抽選に申し込めるということでお願いした。
外れても仕方ないと思っていたが、また別の日に訪れて確認するとチケットが当たっていた。
ルコラスに運が良かったのだと説明しながら私たちは劇場へと向かった。
劇場へは問題なく入場できて劇も行われた。原作は最新刊である3巻まで読んだが劇で行われたのは1巻の範囲だった。
冒険者ラルフが悪魔の封印された指輪を身に着けたために彼女に取り付かれてしまう。指輪を外そうと調査を行っている最中に事件に巻き込まれて悪魔と共に事件を解決する。そこまでの話が劇として再現された。
演者の演技力はもちろん様々な魔道具を使用して昼や夜、天候をはじめ魔物まで再現されていてとても見ごたえがあった。
冒険者ラルフは力で押し切るようなタイプではなく機転が利き様々な情報を駆使して戦うタイプだ。そんな彼が指輪に憑いている悪魔を言いくるめて事件解決に協力させ、最後に悪魔として声だけで演じている演者が「騙されたーっ!!」と悔しそうに絶叫して舞台の幕は下りた。
劇を見終わった時には満足感で満たされていた。
「面白かった」
「演者さんの演技も上手いですし、原作を再現した2人の掛け合いも良かったです」
劇場を出てから夕食を共に食べるためレストランへと入って料理を頼むと劇を見た感想を言い合った。
「魔物との戦闘シーンもかっこよかったですよね。魔道具による幻だとは分かっていますが音も合わさって本物のように錯覚するほどでした」
「それだけ練習を重ねて魔道具を扱っている裏方がいるんでしょうね。とても素晴らしい劇だった」
ルコラスの言葉に私も頷く。
楽しく食事を行いお腹を膨らませてから店を出た。
「この後はどうするんですか?」
ルコラスと手を繋いで通りを歩いていると彼から質問された。
「……ルコラスの家に行ってもいいか?」
「もちろんです」
私が彼の家へ行きたいと言えば悩む間もなく嬉しそうに了承してくれた。
「今回、初めてリネットさんからデートに誘ってもらえて凄く嬉しかったです。それに劇も俺が好きな小説が原作だから誘ってくれたんですよね?」
「えぇ、楽しんでもらえて良かったわ」
私はそうとしか言えなかった。
彼を自分からデートに誘ったのはこの歪な関係を終わらせてしまいたかったからだ。劇については彼が喜んでくれるかもしれないと思ったから誘ったという理由はあるが、少しでも2人で話す時間を減らしたかったということもある。劇を見ている間は彼と話さなくてすむから。
ルコラスと共に通りを歩く。夜であることや大通りでないため私たち以外に人はいない。
背中に何か小さな物が当たってそれが地面に落ちたようでコンという軽い音が聞こえた。直後に1mほど後ろからタタッという足音が聞こえ、振り返れば頭から体をすっぽり覆う黒色のローブを着た何者かの背中が見えた。
地面に落ちた物に目を向ければ楕円形で手の平ほどの大きさだった。
そしてそれは、攻撃用の魔道具として見覚えのある物だった。
「爆弾だ!」
私はすぐにルコラスの手を引いてその魔道具から離れようとした。
腕を引かれて抱きしめられる。
直後、大きな音と衝撃があった。
キーンと耳鳴りがして音が聞こえない。
いつの間にか地面に倒れていて、私に覆いかぶさるようにルコラスが乗っている。
彼は固く目を閉じていて意識がないようだった。
彼の下から這い出て体を起こした。
辺りは魔道具の爆発で周囲の建物は崩れ、大通りへ続く道はガレキによって塞がれてしまっていた。敷かれている石畳は破壊され下にある土が見えるようになっている。
周囲の光景に唖然としたものの倒れているルコラスに対して必死に声をかける。
周辺の被害に比べてパッと見たところ彼に怪我は見当たらない。
耳鳴りも治まってきてガレキの向こうから人々のざわめきが聞こえてくる。
声をかけ彼の頬を軽く叩いているとやがて小さく呻いて彼は目を覚ました。
彼は体を起こしている途中で眩暈を感じたのか片手で頭を押さえた。
手を上げたことで袖がめくれ【レハロフの腕輪】が見えるようになる。
腕輪にはヒビが入っていた。
そのヒビはパキリパキリと音を立てながら広がっていき、やがて自重に耐え切れず崩れ落ちてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます