第08話 ルコラス宅
そういえば昼食がまだだった。かなり遅くなってしまったが改めて昼食を取ることにした。
今度は特に問題が起こることもなく昼食を食べて私室へ戻ってこれた。
戻ってからも業務終了時間まで鑑定作業を行った。
割り込み作業が入ったため予定よりも作業が遅れている。まだ期日まで余裕はあるが残って作業をすることにした。
2時間ほど作業を行って今日の遅れた分を取り戻すと帰宅することにした。
荷物をまとめて部屋に鍵をかけて1階へと下りる。
1階にはルコラスだけの姿があった。彼は私を見て嬉しそうに近づいてくる。
「今日もお疲れ様でした。お客様への対応とフォローがかっこよかったですよ」
「お疲れ様、ありがとう。ルコラスはまだ残るのか?」
彼に褒められ少し照れ臭さを感じながらもまだ残って業務を続けるのかと尋ねる。
彼はカウンターの奥の作業机を見ると苦笑いした。
「あと30分くらいで終わる予定なのでそれが終わったら帰宅するつもりです」
彼は微笑み答えた後、考えるように目を伏せると視線を上げて少し緊張した様子で口を開いた。
「……リネットさんが良ければ今夜うちに来ませんか? 今度は俺が夕食を振る舞いたいです」
私は彼の申し出に驚いた。
デートの後、結局ルコラスの洗脳を解くことができていなかった。
これは彼の洗脳を解く絶好の機会なのではないだろうか。
「ぜひ行きたい。手伝えそうなことがあれば手伝うが何かあるか?」
彼の作業が終わるまでただ待っているのは気が利かない。手伝えることがあればと尋ねてみるも断られてしまった。ずっと近くで待っているのも彼に気を使わせてしまいそうなので私は私室で待機することにした。
ルコラスの家へ行って帰る時に彼の洗脳を解こう。
心にそう決めて明日の予定や魔道具に関しての書籍や資料を読んで時間を潰す。
30分ほどして扉がノックされたので返事をすると帰り支度をしたルコラスが立っていた。
「終わりました。帰りましょう」
私は返事をしてルコラスと共に職場を出た。
彼の家は小さな一軒家だった。彼の話では借家ということだ。
家に入ると整理整頓がされていてすっきりとしている印象だった。私の家の方がよほど物が多いくらいだ。
「すぐに作っちゃうのでゆっくりしていてください」
リビングへ通されソファーに座って部屋のあちこちを観察する。
本棚があったので近づいてどんな本があるのか見ると小説が多かった。小説以外だと他の町について書かれた旅行ガイドや事務、料理の本などがあった。
「興味ある本があったらお貸ししますよ」
「ルコラスの好きな小説はどれ?」
「最近ハマってるのは『冒険者ラルフと指輪の悪魔』です」
せっかくなら彼の好みを少しでも知りたい。
教えてもらったタイトルの本を探すと続き物のようでナンバリングされた本が3冊あった。その1冊目を手に取ってソファーへ戻り読んでみることにした。
彼が夕食の準備をしている間に読んでいたが、夕食が出来たと声をかけられて読書を中断した。
まだ序盤ではあるがキャラクター同士の掛け合いが軽快で文章も読みやすい。物語の展開も引き込まれるようなもので確かに面白い。
食卓につくといくつかの料理が並んでいた。
食前の挨拶をして料理を口に含む。
「どれも美味しい。特にこれが好み」
「良かった。意外と濃い味が好きなんですね」
私の様子をじっと見ていたルコラスが私の感想を聞いて笑顔になる。
「ルコラスが好きだと言った小説を少し読んでみたの。主人公とヒロインがどうなっていくか気になる。それに2人の関係性が面白い」
「でしょう? 俺も読みながらついニヤニヤしちゃったんですよ」
小説の内容は冒険者の職について様々な依頼をこなしている冒険者ラルフが女性型の悪魔が宿った指輪を身に着けて取り付かれてしまったというところから始まる。悪魔はラルフと契約して魂を奪おうとするが肝心なところで抜けていて計画は上手くいかない。結局、上手いこと手伝わされるだけ手伝わされ、事件の最後にしてやったりなラルフと裏をかかれた悪魔が一杯食わされて悔しそうにするというのが1章の落ちだった。
「続編もあるので良かったら読んでください」
私は素直に頷いた。
料理を食べ終わると片づけを申し出た。料理を作ってもらったのだから片付けくらいはしたかったからだ。
ルコラスは申し訳なさそうにしていたが了承してくれた。
食器洗いなどの後片付けが終わってキッチンからリビングへ戻るとルコラスはソファーに座って本を読んでいた。
私は少し緊張しながら彼の隣に座った。
「終わったわ」
「ありがとうございます」
ルコラスは本を閉じて近くにある机の上に本を置いた。
「触ってもいいですか?」
彼は私に熱のこもった視線を向けながら聞いてきた。
顔が熱くなるのを感じながら了承すると彼は私をゆっくりと抱きしめた。
「リネットさん、愛しています」
彼の甘い囁きが耳元で聞こえて心臓の鼓動が速くなるのを感じる。
「もっとリネットさんのことが知りたいです」
真剣さを感じられる普段よりも低い声音だった。
首にルコラスの口が触れたと思うと吸われた。これまで感じたことのない感覚で驚いて声が出てしまった。
「とっても可愛いですよ」
そんな私の反応に彼は小さく笑った。
彼から私への好意が語られる度に嬉しく思う反面、心が苦しくなる。本来のお前は私のことを好きではないのだと言ってしまいたくなる。
「私も愛してる」
それでも、彼から与えられる温もりを私は手放すことなどできなかった。
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