第07話 苦情
目を開けるとカーテンから差し込む光で部屋の中が明るかった。
ズキズキと頭が痛む。吐き気もあって気分が悪い。こんなことは今までに無かった。
その上、昨夜のことが途中から思い出せない。
一体いつ寝たんだろう? ルコラスは?
時計を見れば普段起きる時間よりも1時間は早かった。
私はベッドを下りて顔を洗いに向かった。
リビングへと行くとソファーで横になって眠っているルコラスがいた。
私は悩んだものの顔を洗ってから彼を起こすことにした。
「ルコラス。朝だ」
声をかけながら軽く肩を揺さぶる。
「ん……おはようございます」
彼は目を覚ますと私に微笑みかけた。
「おはよう。朝食を作ろうと思うのだけど食べたいものや苦手なものはある?」
エプロンを付け冷蔵箱を開けると中の食材を確認する。
少しして聞こえてきた返答に応じられそうだったので私は料理の準備を始めた。
「リネットさん、大丈夫ですか? 昨日は相当酔っていたと思うんですけど二日酔いになっていませんか?」
「頭痛がして気分が悪いくらいだから大丈夫」
「いや、それを二日酔いって言うんですよ。朝食は俺が作るんでゆっくりしていてください」
ルコラスがソファーから下りて近くへとやってきた。
彼に顔を覗かれる。
「あぁもうほら、顔色悪いじゃないですか。俺は平気なので座っててください」
ただでさえ気分が悪かったのに下手に動いたせいで体調が悪化してしまった。
心配そうに私を見る彼に逆らえず私はソファーで休むことにした。
ルコラスがコップに水を入れてくれたのでその水を飲んだ。
彼の作ってくれた料理はシンプルなものだったが味が薄めでホッとするような料理だった。そのおかげか気分は悪かったもののあまり抵抗なく食べることが出来た。
「ありがとう。美味しかった」
「口に合ったようで良かったです。じゃあ俺はこの辺りで失礼します。また職場で……あ、でも体調が悪かったら無理しないでくださいね?」
私は大丈夫だと言って彼を玄関まで見送った。
少し休憩してから私は魔道具鑑定協会へと向かった。
職場へと到着するとすでに出勤している職員に挨拶をしながら階段を上がる。
私室に入るといくつかの魔道具の鑑定作業を行い報告書をまとめた。
切りの良いところで手を止めて時計を見ると昼を回っていた。
二日酔いのせいで普段よりも作業効率はかなり落ちてしまったが、頭痛と気分の悪さはかなり回復していた。
お腹も空いたので外で食べて来ようかと財布を持って部屋を出て階段を下りる。
「魔物に気付かれて大変だったんだぞ!?」
階段を下りている途中にそんな怒鳴り声が聞こえてきた。
「も、申し訳ありません!」
「アンタじゃ話にならない! 鑑定人を呼べ!」
受付で対応をしていると思われる女性職員とお客らしき男性の声。話の内容的に鑑定した魔道具に何か見落としがあって問題が起こったのだろう。
私は1階へと下りた。
受付を見るとキャロと20代後半ほどの男性が2人、受付カウンターを挟んで立っている。
「どうしたんだ?」
私は受付カウンターに近づきキャロに声をかけた。周囲の視線が私に集まる。
カウンターの上には1枚の紙があった。
「アンタは?」
「リネットと申します。鑑定人の1人です。その鑑定書を確認しても良いでしょうか?」
男性はカウンターの鑑定書を取って私に突き出してきた。
鑑定書を受け取り内容を確認する。
それは靴の魔道具の鑑定書だった。書かれた効果は身体強化で効果が発動されると走力やジャンプ力が強化されるというものだ。鑑定人はウォルコットさんか。
男性にどのようなことが起こったかを尋ねる。
彼らの話では水辺での戦闘時、前触れもなく靴の魔道具が激しく発光し視界を奪われたという。その時は魔物も彼らと同じ状態にあったため態勢を整えてどうにか対応できたが、熱で見るタイプの魔物であれば危うく殺される恐れもあったという。
「大変申し訳ありませんでした。ただちに確認致します。この鑑定書に書かれた魔道具はありますか?」
彼らは靴の魔道具を乱暴にカウンターの上に置いた。
「お預かりさせていただきます。少々お待ちください」
私は鑑定書の写しと靴の魔道具を持ってウォルコットさんの私室へと向かった。彼にこのことを伝えてそのまま所長のところへ急ぐ。
所長からは大至急魔道具の再鑑定を依頼された。
再鑑定の結果、鑑定書には記載されていない効果が魔道具に備わっていることが分かった。
その効果は水に濡れると中級の光魔術が発動し、激しい光によって目を眩ませるというものだ。
彼らの訴えは正しかった。
私はすぐさま再鑑定した結果をまとめて所長に報告した。
それからは所長、ウォルコットさんと共に彼らの元を訪れ説明を行い謝罪をした。
賠償等の処理は私には関係がないためこの後どうなるかは分からない。
私室へと戻って休んでいるとノックの音が聞こえたので返事をした。
部屋に入ってきたのは30代後半の男性、ウォルコットさんだった。
「……再鑑定ありがとうございました。お手数をおかけして大変申し訳ありませんでした」
そう言って彼は深く頭を下げた。
「こちらは問題ありません。気にしないでください」
「ありがとうございます」
彼は申し訳なさそうにしながらも部屋を出る時には再び頭を下げて部屋から出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます