第05話 デート
「どのようなメイクにしましょう? 目的などを教えてくださればご提案もさせていただきますが」
「この後デートなんです。今の服と私に合った化粧をお願いします。細かくはお任せします」
「お姉さんだとこちらか、このメイクが似合うと思うのですがどちらの方が好みでしょうか?」
初めての美容室で少し緊張はしたが相手もプロ。私が化粧に明るくないことを察してくれたようで化粧の仕上がりを写真で見せてもらった。
その後も足りない情報は質問されたので返答した。
「ではメイクを始めますね。目を閉じてください」
彼女に促され私は目を閉じた。
美容室で化粧が終わって鏡を見た時には驚きすぎて言葉が出なかった。
化粧は魔法だと良く言ったものだ。
値段はそれなりにしたがこの技術力を思えば決して高いとは感じない。
できることは全てやった。
普段は後ろの低い位置で1つにまとめている髪も下ろしている。店員さんにおすすめされた服でロングスカートも履いた。ヒールを履くか迷ったが、試しに少し歩いてみるとその困難さに諦めた。
そして今、最後の準備である化粧も終わった。
もう少しで待ち合わせ場所に到着する。時間にまだ余裕があり約束の10分前には着けそうだ。
待ち合わせ場所である噴水広場に到着すると噴水の近くにルコラスが立っていた。
ラフながらも大人っぽさもある服装で、普段とは違うかっこよさがある。制服を着たルコラスばかり見ていたため私服の彼はとても新鮮に見えた。
ルコラスは私に気が付くと驚いたように目を丸くしてから笑顔を浮かべて私に近づいてきた。
「俺のためにおしゃれしてきてくれたんですか? 凄く似合っています」
「……ルコラスもかっこいいよ」
目をキラキラさせながら褒められ恥ずかしく思いながら私も彼に微笑んだ。
ルコラスが手を差し出してきたので私はおずおずとその手を取った。
手を繋いで道を歩くだけで胸が高鳴る。
「リネットさんは行きたいところはありますか?」
「服を見たい」
あまりおしゃれに興味はないがルコラスの好きな服であれば好きになれそうな気がする。
何より手元に置ける。
共に服屋へと行くとルコラスが扉を開けてくれた。
服屋では互いの選んだ服を試着することになった。
「……こういう服がルコラスの好みなの?」
「はい。とても素敵です」
ルコラスは白のワンピースという非常に清楚な印象を受ける服を選んだ。私なら絶対に選ばない。
清楚系だけでなくきっちりとした服もルコラスの好みのようで、藍色を基調とした上着とズボンで上品かつ落ち着いた印象の服も渡された。
「かっこいい系も似合いますね。リネットさんはどちらの方が着やすいですか?」
「今着ている服の方が着やすい」
スカートを履くことにはやはり抵抗がある。今試着している服はズボンなので気兼ねなく着られて気持ちも楽だ。
それに明るい色よりも暗い色の方が好きなので色合いも良い。
次に私がルコラスの服を選んだ。
礼服のようなきっちりしたものや明るい色の気になった服を着てもらう。
服を見回っている時、眼鏡が置いてあるのを見つけてなぜ置いてあるのか尋ねた。店員はファッションとしての眼鏡で度は入っていないと答えた。
「似合いますか?」
眼鏡もファッションなのかと思って眼鏡を眺めていると黒縁の眼鏡を手に取ったルコラスがそれをかけて微笑む。
「良く似合っているよ」
眼鏡をかけた彼は普段よりも落ち着いた雰囲気になってこれもこれで素敵だ。
自分の服にも大してこだわりがなく、どうしようかと悩んだものの彼の服を選ぶのは楽しかった。
いくつか服を購入して服屋を出るとルコラスの希望で魔道具の売られている市場へと向かった。
「何か便利だったり面白い魔道具があったら買ってみたいなぁと思っているんですけど、どんな魔道具があるのか詳しくなくて。おすすめがあったら教えてください」
ルコラスに言われて私は張り切った。
しかしルコラスの求めている魔道具は抽象的だったのでいくつか例を挙げて反応を見ることにした。
「汚れた食器を入れると洗ってくれる物や洗濯といった家事を行ってくれる物。部屋の気温を調整する物や風を起こし涼しくするような環境を整える物。氷を製造する物や火の調整が楽な料理等に使える物など様々な物がある」
パッと思いついたものだけを答えたがもっと多くの魔道具が存在している。
「どれも便利そうでいいですね。実際に見てみたいです」
私はその魔道具が売られている店へ彼を案内した。私もたまに来る店だ。
ルコラスはその魔道具を実際に手に取り気に入ったようで購入を決めていた。
それからルコラスに行きたいところがあるからと言われてついていくと装飾品の店だった。
「リネットさんはどういうデザインのネックレスが好きですか?」
問われた私はショーケースの中に入ったネックレスを眺めた。
装飾品など付けたことがない。あまり興味も無かった。
「この中だとこれ、かな」
迷いながらピンクゴールドの花のネックレスを指差した。
控えめな大きさのペンダントトップに薄いピンク色であり私の髪の色とも合うような気がした。
そしてふとネックレスの下に置かれた小さな紙が目に入った。そこには値段が書かれていて非常に可愛らしくなかった。
私はネックレスのデザインにばかり気が取られて値段を見ていなかった。
これだけの金銭があれば日々の生活を楽にする便利な魔道具が3つは買えそうなほどだ。
装飾品とはこれほどに高いものだろうか。
「あ、いやもう少し考えたい」
「店長、これを買います」
恋愛には疎い私でも、ルコラスが私にプレゼントしてくれるつもりで質問されていることは分かった。
だから私はもっと値段の安い物から選ぼうと思ったがルコラスは私が指差したネックレスを見るとすぐに購入してしまった。
そしてショーケースから取り出されたそのネックレスを私に付けてくれた。
「良く似合ってますよ」
彼は私を見た後に満足そうに微笑んだ。
私は申し訳なさや恥ずかしさを感じながらお礼を言った。
装飾品のお店を出ると夕方になっていた。
「行きたいところがあるんですけどいいですか?」
「大丈夫だ」
どこへ行きたいのだろうと思いながら私は頷いた。
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