第04話 デートの準備
翌日、私は定時直後に職場を出た。
その足で本屋へと向かう。
調べものをするのであればまずは関連書籍を読む。
これまでもそうしてきた。
本に書かれたことが全てとは言わないが多くの知識や知恵が詰まっている。
魔道具関係の書籍は読むが物語を描いた小説はあまり読まない。
話題になっている本なら一応は読んでみるものの、シリーズものだと途中で読むのを止めてしまうことが多い。読んだ物語が私に合わなかったのかもしれない。
読んだ本の話が出ても話しかけるタイミングが分からず様子を窺っている間に機会を逃してしまう。
話題作りのための読書は行わなくなっていたのだが、もう1度挑戦してみることもいいかもしれない。
店員に男女の恋愛を描いた小説でおすすめのものはないかと尋ねた。
おすすめされた小説で気になったものを手に取る。
これで本来の目的は達成できたわけだが、ルコラスがキャロに薦めていた本が気になった。
自分なりに探してみたものの小説の置かれた本棚の場所が分からなかった。
店員に尋ねて目的の本が置かれた場所を教えてもらう。
ルコラスがキャロに薦めていた本は同じジャンルなのかどれも近くの本棚にあった。
どんな内容かと私は本のあらすじを見た。
どれも男性同士の恋愛模様を描いた小説だった。
しかも成人向けだ。
色々と衝撃的だった。
キャロはこういう物語が好きなのだろうか。いや、人の好みにケチをつけてはいけないな。
読んでみると案外面白いのかもしれない。
現状のままでも仕事には支障はないが、対人コミュニケーション能力が低い自覚があるためそれを改善したい。
買って読めばキャロとの会話が円滑に進み問題の改善が見込めるかもしれない。
私は『完璧執事の謀』も購入することにした。
帰宅してから男女の恋愛小説を読み始める。
1冊で完結する小説で物語はヒロインとヒーローの出会いから始まる。農民のヒロインが町へ農作物を売った帰り、傷ついて倒れているヒーローを助けたことがきっかけで仲良くなるというもの。
そのヒーローは貴族で弟に命を狙われた結果だったが自身を暗殺しようとしたこと、不正の証拠などを集めて叩きつけて領主になりヒロインに告白して結ばれるというもの。
読み終わったものの物語の端々に引っかかることがあり、それが気になって物語をあまり楽しめなかった。
貴族と平民が結婚して幸せになれるのだろうかということや暗殺されかけたというのに町でヒロインとデートしてもいいのかなどだ。
あくまで娯楽の物語でありそのような細かいところまで気にしては駄目なのだろうが、気になってしまうのだから仕方ない。
ただ勉強にはなった。デート当日の流れについても少し想像できた。
今夜はこれまでにして私は休むことにした。
デートまで日数の余裕があったため職場からの帰路や休日に町へ繰り出して恋人らしい2人組の行動を観察した。
手を繋いだり腕を組みながら歩いたり、食事の時には互いに食べさせ合ったりしていた。彼らはとても幸せそうだった。
浮気していた男性が彼女と浮気相手に詰め寄られ両方から平手打ちをされるということもあったが、それ以外の恋人たちの関係は良好そうだった。
争っている姿よりも仲良くしている姿を見る方がこちらも幸せな気分になるため彼らにはこの先も仲良くしていてもらいたいものだ。
新しい服も店員に相談しながら買った。デート当日には美容院で化粧も含めて身支度を整えてもらう予定だ。
寄ってみたい店にも目星をつけ話題も考えておいた。
デート用に新しく買った服を眺める。
おしゃれに疎い私はプロである店員に相談しながら服を選んだ。おすすめされた服の中に灰色のロングスカートがあった。
私は身長が高いため似合うらしい。試着を勧められたが断った。断りはしたがそのロングスカートとそのスカートに合う服を聞いて購入した。
そして今、私の目の前にはそのロングスカートとセットでおすすめされた服がベッドの上に置かれている。
それらを着た自分を想像する。
『どうして男じゃない』
『お前みたいなのが俺の子のはずがない』
『女なんて要らなかった』
父の言葉が脳裏によぎる。
ルコラスは普段とは違う私の恰好を見て失望しないだろうか。
いや、【レハロフの腕輪】のがある限りそれはありえない。
腕輪のことを思い出し胸がズキリと痛む。
考えないようにしながら私は勧められた服を身に着けて姿見の前に立った。
雑にまとめて後ろで1つ括りにした紫色の長い髪に金色の目。
平均的な女性よりも頭1つは高い身長。細身の体はほとんど凹凸を感じられない。
それでも普段の恰好よりは随分女性らしい見た目になっていた。
だからこそ落ち着かない。
悪いことを分かっていて行うような罪悪感にスカートを脱ぎ捨てたくなる。
けれど少しでもルコラスに綺麗、もしくは可愛いと思ってもらいたい。
見た目だけではない。口調にも気を付けないといけない。
最初で最後になるかもしれないルコラスとのデートだ。
後悔が残るようなことにはしたくない。
明日、いよいよ彼とのデートだ。
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