双子の姉
頭の痛みが徐々に引いてきて、私は目を覚ます。何分ぐらい気を失っていたのだろう、と思いスマホを取りだして時間を確認するけれど、時間は一分も動いていなかった。体感では、十分以上は気を失っていた気がしたけど、全く動いていないとは。ここで混乱するのは、ナンセンスの極み。私は気を失う前に手を持っていた日記帳を開き、情報を得る。
『並行世界の私へ。貴方の返事が私の方に来たよ。だから、並行世界説は本当になった。私達二人がバットエンドルートを回避して、ハッピーエンドかトゥルーエンドを迎えられるようになるために、まずは並行世界への行く条件、トリガーを探したい。協力してくれる?』
どうやら、私の返事は向こうの私に届いたらしい。そして向こうの私からの提案。並行世界の私は並行世界へ行く方法を知りたがっているが、私は並行世界の私の呼称が欲しい。私が私に話しかけているので、薫とも言えない。薫Aを私として、薫Bを並行世界の私としよう。早速日記帳にそれを書こう。
『並行世界の私へとりあえず二人の呼び方を決めない?私を薫Aとして貴方は薫Bって呼ぶの。どう? 』
◇◇◇
日記帳をずっと開いて向こうの私の返事を待っていると、チリチリと紙に文字が浮かび上がってくる。
『並行世界の私へとりあえず二人の呼び方を決めない?私を薫Aとして貴方は薫Bって呼ぶの。どう? 』
なんで向こうの私は楽観的に二人の呼び方など考えているのだ。少しの怒りを私に抱えながらも、とりあえずは了承の返事を返す。
『別にそれは構わないよ。それよりトリガーのことを知りたい』
◇◇◇
薫Bからの返事が日記帳に綴られる。何処と無く文字の筆圧がいつもより強く見えるが、怒っているのだろうか。
しかし、これで一つの説を潰すことに成功した。私が気を失ったのは、薫Bと日記帳を通して会話した瞬間だった。あそこで薫Bも気を失ったと仮定した場合、会話をして気を失う。そうすることで、二人は二つの世界を行き来する。言い換えれば、元いた世界へ戻れる。
でも、この説が立証されてしまった方が戻る方法が簡潔で良かったのに、と少し肩を落とす。
『ありがとう薫B。トリガーの件だけど、今は全部が未知数だから家に帰ってからゆっくり考えよ。電車の中で文字を見るのは少し気持ちも悪くなるしね』
◇◇◇
『ありがとう薫B。トリガーの件だけど、今は全部が未知数だから家に帰ってからゆっくり考えよ。電車の中で文字を見るのは少し気持ちも悪くなるしね』
また日記帳に新しい文字が綴られる。薫Aは電車の中は気持ち悪くなると言っていた。実際私も少し酔い始めていた。やはり、薫Aは私なのだな、とちょっとだけ面白くなる。双子の姉が出来た気分。私は日記帳を閉じて、酔い始めていた頭を覚ますために、忙しくなく動く電車の風景に目を移す。
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