入れ替わり

 頭が酷く痛み私は気を失ってしまった。暗く、ぼんやりとフワフワとした状態が体感十分ぐらい続く。次第に、ふわついていた意識はハッキリとしてくる。


 パッ、と付かない電気を無理矢理付けたように、私は目を覚ます。頭はまだ痛む。

 駅を何駅乗り過ごした確認しようと、電車内のデジタルサイネージを見ると、気を失う前と変わっていなかった。意識は確かに失っていた。だが、失っている間電車は一ミリも動いていなかった。十分といえば、三駅は過ぎていてもおかしくは無い時間なのに。一駅すら過ぎていない。おかしい、と思いながらも冷静な自分がいた。非現実的なことが立て続けに起きすぎて慣れてしまったのだろう。人というのは案外簡単に慣れてしまう生き物なのだな、と思いながら私は手に持っていた日記帳を開く。


『これを書いた並行世界の私へ。ちゃんと届いたよ。にわかには信じられない形で文字は出てきたけど、今更そんなこと、どうでもいい。今は、並行世界説が本当になったことの方が一大事。自分の世界、元いた場所へと帰る方法を模索しよう。 返事は次のページにお願い』


 私が書いたページの次に私からの返事が届いていた。返事が来た。つまり、並行世界説は嘘ではなくなり、現実のものとなる。

 まさか説立証なるとは。ファンタジーは小説や漫画の中だから楽しめると言うのに、自分が主人公のような境遇になるとは。私が主人公の物語なんて、きっと売れないだろうな。


「……でも、どうして急に? いつも日記は付けていたけど、こんなことになったのは今日が初めてだし。うーん、やっぱりトリガーを見つけないと根本的な解決にはならないよね」


 私は並行世界説が本当になったことで、今まで無いからと捨てていた思考回路を拾い直す。まず、並行世界への入れ替わりのトリガー。これが分からない限り、元の世界へ戻ることは叶わない。戻ったとしても、また何かの拍子で行ってしまった際に帰ることが叶わなかったら最悪だ。バットエンドルートは誰も好きじゃない。ハッピーエンド、トゥルーエンド。この二つじゃなければ、私は最悪な結末を迎えてしまうことになる。


「とりあえず、あっちの世界の私に話しかけてみよう」


 一人でうだうだ考えるより、知能が同じの私に問いかけるのが手っ取り早いかもしれない。しかし、知能が同じなら同じことしか考えないから無意味かもしれない。いや、今は藁にもすがりたい気持ちだ。


『並行世界の私へ。貴方の返事が私の方に来たよ。だから、並行世界説は本当になった。私達二人がバットエンドルートを回避して、ハッピーエンドかトゥルーエンドを迎えられるようになるために、まずは並行世界への行く条件、トリガーを探したい。協力してくれる?』


 よし、これで後は返事を待つだけ。

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