見覚えのない日記内容

「……なにこれ? もし、並行世界に行って記憶を無くしてしまった私へ? こんなの書いた覚えない……」


 私は大学の授業が終わって、家に帰ろうと電車に乗っていた。ふと、今日の不可解な出来事達を日記帳に記しておきたいと思い、日記帳を取り出す。取り出した日記帳を開くと、中には自分が書いた覚えのない文が書かれていた。


 でも、その文の字は私のと恐怖を覚える程に似ていた。書いた覚えがないのに、書かれている字は私そっくり。特徴的な丸文字、少し歪なハネと止め。顔から、血の気がサーっと引いていくのが分かった。


「前のページは何も変わってない。 今日は一回も日記帳は外に出てないし、一体誰が……並行世界の私とか? いやいや、ありえない」


 日記帳は今日一日外に出しておらず、誰かにいたずら書きをされるようなこともない。そもそも私は友達が少ない。書かれるなんてことは夢幻だ。生涯、門外不出の日記帳だ。

 私は並行世界説を思い出す。自分が考え、なかったことにしたあれ。もし、これを書いたのが並行世界の私だとしたら。


 いや、しかしそんなファンタジーが現実に起きるはずがない。ここはアニメの世界でも、漫画の世界でも、小説の世界でもないんだ。

 だけど、もしその説が本当だとしたら私達はこれを、日記帳を介して意思の疎通が可能ということになる。なんの根拠もないが、私は日記帳にペンを走らせてみる。


『並行世界の私へ。これを見られていたら次のページに返事を書いてください。こんな、ファンタジーチックなことが現実に起こるとは、とても考えにくいけど、私の日記帳には書いた覚えのない物が書かれている。多分あなたが書いたものだと思う。もし、この内容が貴方の書いたものなら、この並行世界説を本当だと裏付ける証拠はこの日記帳になる。私なら、同じ自分なら同じ考えになってるはず。返事待ってるよ、私』


 私は並行世界の私へ日記帳を介して、メッセージを書く。次のページに返事が書かれた場合、この世界は私の知る世界ではなくなり、凛も凛であってそうではなくなる。

 非現実的なことが立て続けに起き、私の頭はガンガンと痛み始める。トンカチで脳みそを直接叩かれているような痛みが身体中に伝わり、気を失いかける。痛みは引くどころか、増すばかり。痛みに耐え切れずに、私の意識は遥か遠くへ旅立っていく。


 ◇◇◇◇



『並行世界の私へ。これを見られていたら次のページに返事を書いてください。こんな、ファンタジーチックなことが現実に起こるとは、とても考えにくいけど、私の日記帳には書いた覚えのない物が書かれている。多分あなたが書いたものだと思う。もし、この内容が貴方の書いたものなら、この並行世界説を本当だと裏付ける証拠はこの日記帳になる。私なら、同じ自分なら同じ考えになってるはず。返事待ってるよ、私』


 日記帳に突然文字が浮かんでくる。ジワジワと火を起こすように、文字は浮かび上がってその全体図を表す。浮かんできた文は、とても信じれないもの。しかし、同時に信じさせる証拠もあった。ここに書かれている字は、私の字だ。これが本当に並行世界の私からのメッセージなら。

 私は一縷の希望を抱き次のページに返事を書く。


『これを書いた並行世界の私へ。ちゃんと届いたよ。にわかには信じられない形で文字は出てきたけど、今更そんなこと、どうでもいい。今は、並行世界説が本当になったことの方が一大事。自分の世界、元いた場所へと帰る方法を模索しよう。 返事は次のページにお願い』


 返事を書き終わる。それと同時に頭に強烈な痛みが走る。ハンマーを脳みそに振り落とされるような痛みが身体中に走る。痛みは増すばかりで、私の意識はプツリと途絶えた。

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