自己紹介

 混乱していた私の頭は大学に着くと、落ち着きを段々と取り戻す。脳の情報部に考えもしてないことが横から入ってくる感覚がどこかへ消えて、スッキリともする。


「顔色良くなったね、良かった。 じゃあ、俺こっちだから。バイバイ、魔法使いの人」


「あ、うん。 ここまで付き添ってくれてありがとう。それと私の名前魔法使いの人じゃなくて、かおるって言うの。これからそう呼んで」


 そういえば、まだ名前を名乗っていなかったな、と今更ながらに気付く。私は足早に去ろうとする彼を呼び止めて、自分の名前を言う。少し照れくさかったが、ここまで付き添ってもらったお礼と考えれば楽になる。これがお礼なのは、あれなので後日ちゃんとお礼は渡すことにしよう。


「俺はりん! あっ、もう話してる時間が無さそうだ! じゃあね、薫さん!」


「バイバイ」


 私はここまで付き添ってくれた彼―凛に別れを告げる。青のストライプが太陽に反射して、彼は青空のような明るさを放っていた。

 ボケっと、去っていく青空を見ていたが私も授業があることを思い出す。結局、違和感の正体は掴めていないが、授業には出席しなければならない。確か、次の授業はA棟のA教室だったな。


「ううーい、今日もやっていくぞ」


 だらけきった声色で教室に入ってくるのは、葉弥勉はやびらつとむ先生だ。毎回、服の襟が伸びきった物を着ていて、とにかくだらしない。生徒達の間では、だらしない勉強と呼ばれている。

 しかし、ここにいる先生は本当の先生なのだろうか。私はまだ違和感の正体を掴めていないが、実は一つの結論を出していた。あまりにも空想的すぎるので、なかったことにしていたが、あるとも言えなければないとも言えない。

 ここは並行世界というやつでは無いのか。昔、小説で呼んだことがある。主人公が並行世界へ行き、死んでしまった恋人に会うという物語だ。しかし、主人公は並行世界の恋人に会ったため、恋人であり、そうではないという。結局、並行世界の恋人も死んでしまうという悲しい物語だった。


 けれど、それが現実の世界で起こるとも考えにくい。仮に起きたとしても、並行世界へ行けるきっかけ、つまりトリガーが分からない。私は、朝起きてからずっといつも通りの日々を過ごしていた。一つ違うことがあったとすれば、凛と出会って鍵を渡してもらったことぐらいだ。


「違和感の正体分かんないな……」


「ん? そこの二段目の右の人何か言ったか?」


「いえ、何も言ってません」


「何か言ったと思ったが、気のせいだったか」


 葉弥先生は私がボソッと呟いた言葉に反応する。横の人でも反応できないぐらいの声量で言ったのに、凄い地獄耳だな。

 教室にいる人達は、なんのこっちゃという顔をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る