魔法使い

 なりきりセットを買った私は家路に着いていた。狭い路地裏に入って、十分。カレー屋の匂いが鼻をくすぐるようになれば、そこは私の家の近くだ。

 私が住んでいるアパートのすぐ横にはカレー屋が建っている。いつも、美味しそうなカレーの匂いを辺りに充満させている。


「ただいまー」


 誰もいない部屋は閑散としていて、壁についている、電気のボタンをパチッと付ける。ジジッ、と音を立てて電球は光を灯す。

 買ってきた玩具を部屋の真ん中に配置している机に置いて、私は台所に手を洗いに行く。

 ミントの香りの石鹸を手にいっぱい乗せて、ガシャガシャと洗う。


 水で石鹸を落として、買った玩具を開けてみる。


「……これ本当にただの玩具だ」


 箱を開けてみたら、マジシャンと書いていたのに出てきたのは、TVアニメと連動して作られていそうな魔法のステッキが出てきた。

 ステッキには、ボタンが付いていて押してみると


「魔法少女、マジシャ!」


 と鳴る。どうやらこれは、私が期待していたマジシャンとは違ったようだった。でも、後悔という気持ちは無かった。数十年ぶりに手に取った、子供用の玩具は大人になってしまった私にとっては懐かしい代物だった。


 童心に帰ったようにステッキを鳴らして遊んでみせる。回してみたり、攻撃をしてみせたり、小さい頃にした遊びをする。


「ふふ、あはは」


 何が面白いのか、笑っている私でも分からなかった。ステッキを回すのが楽しかったのか。それとも、攻撃をするのが楽しかったのか。


 子供の頃は、何が楽しいかなんて分からないまま玩具で遊んでいたものだ。きっと、何が楽しかったかなんて分からないのだろう。


「お腹すいたな」


 玩具で遊んでお腹が空く。冷蔵庫を開けみてみると、即席ラーメンが一袋だけ入っていた。

 台所の下から鍋をひとつ取り出して、水を入れる。沸騰してから、ラーメンを入れてその間に器を温めておく。湯がき終わったラーメンを温めておいた器に移して、後入れの醤油味のスープをお湯に溶かす。


「出来上がり〜。さて、さて、いただきます」


 麺をちゅるんと一口食べる。醤油のいい感じの塩っぱさと、喉越しのいい麺は最高に美味しかった。ズルズルと、手は止まらずに器をあっという間に空にする。


「ご馳走様でした」


 食べ終わった器を片づける。お風呂に入って私は歯を磨いて寝ることにした。

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