シナモンアップルパイ~大人の味覚~

櫻月そら

詩 シナモンアップルパイ~大人の味覚~



シナモンの入ったアップルパイ

昔から母が好きだった


幼い私は 匂いが苦手だった

何でこんなものが好きなの?


大人になれば好きになるよ

母が笑う


予言か暗示か 本当に私も好きになった

食べられる のではなく 好きになった

いつ頃からかは覚えてない


数種類のスパイスが入ったチャイ

これも好きになった

やはり いつ頃からか覚えてない


還暦を過ぎた母はチャイが苦手らしい

シナモン入ってるのに……


春菊は小学校高学年で好きになった

なぜだか これはハッキリ覚えてる

すき焼きに 春菊が入ってないとガッカリする


大人になれば 春菊の美味しさがわかるようになる

誰かに言われたことがある


大人の味覚って何だろう


ブラックコーヒーが飲めるようになったら?

日本酒が美味しいと思えるようになったら?


私はどちらも苦手


いつの間にか

小学校高学年くらいの子どもがいても

おかしくない年齢になった


そんな歳でも パクチーを食べて

寝込むほどに苦手なのだと 初めて知った


まだ味わっていないものは

世の中に数え切れないほど存在する


食べ物も 経験も


喜びも悲しみも 人生のスパイスだという

苦しい経験が 創作の肥やしになるともいう



大人になれば 食べられないものは減る 

ような気がする


けれども 

長く生きれば 好き嫌いは増える


昨日よりも今日よりも 

深く自分を知っていくのだから


生きていれば

刻々と変わっていく自分と向き合うことになる

たとえ百の齢を越えようとも


それは

甘いか 辛いか しょっぱいか


できることなら

苦い思いはしたくない


しかし

甘いだけでは物足りない


甘さと刺激を織り交ぜた

シナモンアップルパイくらいの人生なら

美味しく食べ切れるだろうか


さいごの一欠片まで

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シナモンアップルパイ~大人の味覚~ 櫻月そら @sakura_sora

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