第4話 なに!土属性だけだと!

教会の一室、輝きを失った水晶は中に罅が入ったように濁っている。


「いやあ、勇者様に続き、人生に2回も召喚者の適性検査が出来るなど、神官冥利に尽きるというものです。


思わず高ぶってしまい、詠唱の音量も上がってしまいましたわ。はははは...」


冷ややかな周りの目から想像するに、あの大音声の詠唱は単なるパフォーマンスだったようだ。


そしてプリントゴッコ、いや失礼、適性検査セットにより写し出された俺の適性は....


土属性 中....だけでした。


正確に言うと、読み取れるのが土属性 中だけで、後は文字化けしている行が5行ほど書かれていたのだ。


「つ、土属性...土属性だけですか。」


「...土属性だけですね。」


明らかに落胆の色が見える一同。勇者の同郷だからと過度の期待をしていたに違いない。


そんなの無理ですから!


「勇者殿は『召喚仕様書』を魔方陣に描き込まずに召喚されたのですな?」


「ええ、神父様。召喚の魔方陣だと知らずに起動させたものですから。」


「領主様、それならこの結果も頷けるというものです。

元来、召喚の儀式において重要なのは召喚仕様書の記述であることはご存じだと思います。」


「ああ、勇者殿の召喚時にも念入りに検討して記述したからな。」


「召喚仕様書に記述された必要スキル一覧に合致する者が召喚対象となります。


ゆえに、仕様書の内容が厳し過ぎると、召喚対象者が見つからず召喚は失敗し、甘くすると多大な労力の割に求める勇者が現れないのです。」


「となると、今回魔方陣に仕様書を描かなかったから、条件が曖昧なまま選ばれたと...」


「その通りです。たまたま土属性は我らの理解出来るスキルと一致したから表示されただけで、その他の文字化けしているところ...これは他の世界で使えるスキルなのでしょうな。」


「な、なんと、それならこの結果も納得できるというものだ。


龍太殿、非常に申し訳なかった。このようなことになっていたとは全く想像もしていなかったのだ。本当に申し訳ない。


そ、そうだ、このスキルだけではこちらでの生活もままならないだろう。


カルロス、カルロスを世話係として「結構ですう!」...どうしてだ、カルロスは優秀な騎士だぞ。


それなりの収入もあるし、身の安全も守れるぞ。」


横でカルロスが悲しそうに子犬のような目をしている。


体積で言えば俺の2倍以上ありそうな屈強な奴なのに。


それに、身の安全は確保できても、貞操の危機が付きまとうではないか。


「まあよい、しばらくは我が屋敷で過ごすのが良いだろう。こちらでの生活に慣れる必要もあるしな。


その内カルロスとの仲も深まっていくだろうしな。」


落胆の色を隠せない神父様にさよならを告げて、いろんな意味で落胆する皆さんと領主屋敷に戻るのであった。


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