第2話 勇者困り果てる

「ここはどこだ?」


俺、山下龍太は突然の異変に頭が追い付かないでいた。


が、そこは真っ暗な部屋の中。


かろうじて、薄暗いランプの明かりが部屋の一部を仄かに映し出している。

窓にはガラスもなく、板を張られているだけだから、当然外の明かりは入って来ない。真っ暗なのも当然である。


その場の雰囲気に俺はここが地球では無いと感じる。


纏わり付く空気がやけに重苦しく感じたのだ。


「召喚されたのかな?」


呟いてみるが、召喚であればそこには大勢の魔法使いと綺麗なお姫様が居るはず。


少なくとも、俺の知っている漫画の世界ではそういうものだ。


しかし真っ暗なそこには誰もいない。


いや達彦が居たのだが、気を失っている上に、この暗闇では見つけることもかなわない。


早朝からのコンビニとホームセンターのバイトを掛け持ちして疲れ切った身体は、靜寂と暗闇によって、自然と俺の意識を飛ばすのであった。



「おい!起きろ!」


野太い声に頭が覚醒してゆく。


「煩いなぁ」


呟いてみるが、声にはならない。


それどころか、手を動かそうとしてもビクともしなかった。


拘束されてる?


恐る恐る目を開くと、重そうな甲冑に全身を包んだ屈強な騎士がこちらを睨みつけていた。


あかんやつや。


校長室に呼ばれた時以来の危機感が強制的に意識を手放そうとさせるが、騎士様も強者ということか、ホッペを叩かれて、思い切り引き戻された。


「勇者様、勇者様、大丈夫で御座いましょうか!


勇者様ーー」


かろうじて首を曲げた姿勢で横を見ると、明らかに日本人と分かる青年が他の騎士に抱きかかえられていたのだった。



そして10数分後、拘束を解かれた俺と、必死に土下座する勇者こと達彦、そしてその横には頭を擦り付けるように蹲っているふたりの騎士がいた。


「本当に申し訳ありませんでした。」


いつまでも謝る達彦に連れられて、領主の執務室へと移動。


その途中で、この世界の情報や達彦が召喚された時の状況を聞く。


俺の予想通り、達彦が召喚された時は大勢の魔法使いと美しいお姫様が居たそうだ。


「怒るとこそこですか?」


異世界物好きの童貞男子大学生なんだから、少しくらい夢を見させて欲しいものである。


もちろん俺の第1希望はハーレムですけど。なにか?



「それで、その美しいお姫様との恋愛は?」


「そんなの小説の中だけですよ。


ちなみに、エルフのクッコロも居ませんからね。


居るのは、むさ苦しい騎士達と、オタクっぽい魔法使いだけですよ。


それも全部、男です。」


「達彦君、今すぐ日本に帰らせてくれたまえ。


そして、準備が出来たら再度召喚を…「無理です。無理ですからね。」……………」


せっかく異世界転移が叶ったのに、理不尽だー。


ふかふかの絨毯敷きの廊下で崩れ落ちそうになる俺を、不思議そうな顔をして、むさ苦しい騎士が抱き上げたのだった。

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