第4話 勝負開始一日目③

『お便りコーナー!』


 スズは少し作った声で企画のタイトルを読み上げる。


『こちらのコーナーは、皆様から頂いたお便りを読ませていただくコーナーとなっております。スズたちのTwitterにお便りを送れるページのリンクが貼ってあるので、もしよろしければ送って頂けると活動の励みになります!』


 スズがいつも通りコーナーの説明をしていく。


 もう何百回もコーナーの説明をしてきたものだから、スズはこの説明文を暗記している。

 そのため、スラスラと読み上げられる文章は聞き取りやすかった。


 簡単に説明すると、よくあるただのお便り読みだ。

 だが、やはりお便りを送ってくれる人はそれなりにいるので、このコーナーはかなり時間を取っている。


『では、さっそくお便りの方読んでいきましょうか!アオ先輩頼みますね!』


 そうスズに振られたので、俺はお便りを読み始める。


『うん。では、一通目のお便りです。ペンネーム、ぺんきんむしゃむしゃ太郎さんから頂きました。ありがとうございます。』


『ありがとうございますっ!てか名前すごいな』


『スズちゃんアオくんこんにちわ!いつも二人の配信を楽しみにしてます。二人の男女だからこその距離感と、テンポのいい会話が大好きで、配信に行けなくても、アーカイブでいつも見てます!!

 そして、お二人に質問があるのですが、誰かとコラボする予定などはないんですか?コラボした相手とどのような会話をするのか少し気になります笑 これからも応援しています!』


 ファンからお便りを聞いてスズは少し悩むような顔をしてから、パッと顔を明るくさせる。


『お便り本当にありがとうっ!コラボする予定はないですね!』


 キッパリとスズはそう言い切った。


『んー、まぁそうだね。僕たちは二人で配信していきたいんだよね』


 少し苦笑が混じった声を上げつつ、俺はスズの意見に賛同する。


 コラボするとなると相手と時間を合わせたり色々とやらなければ行けないことがあるが、俺たちの限られた時間で予定を合わせることをほぼ不可能に等しかった。


 だからこそ、俺たちはキッパリと否定した。


『もちろん、コラボで得られるものってたくさんあるとスズは思ってるよ!だけど今スズたちに必要なものではないかなぁ』


『確かに、今僕たちが求めてるのって配信者との関わりっていうよりは、視聴者との関わりだもんね。』


『そうそれ!スズたちは今は自分のこととみんなのことを一番に考えたいって思ってるんだ!今はしなくても、スズたちもいつかはコラボすると思うから、それまで待っててほしい!』


 スズは自分の発言を恥ずかしがる様子もなく、堂々とそれが当たり前かのように言葉を並べていく。


 俺は誰にも聞こえないくらい小さな音でぷはっと吹き出した。


 ──本当に嫌になるくらいかっこいいやつだな。


 これは紛れもない本心だった。


『でも、みんなの気持ちはとってもありがたいよ!本当にありがとう!』


 俺は視聴者に感謝の言葉を述べる。


 そして、この話はここで一区切りして、また他のお便りを交互に読み上げていく。

 一時間ほど雑談を混じえながら俺たちはお便りを読み続けた。


 そして、ちょうどキリのいいところで、またコーナーは移り変わっていく。


『ねぇねぇ、教えて?先輩!!』


 次は俺が少し声を作ってコーナーを読み上げた。

 そして、そのまま俺はコーナーの説明を始めた。


『こちらのコーナーは、わたくしアオが配信者を目指している方たちの質問に答えて、アドバイスしていくコーナーとなっております。』


 このコーナーは配信者を目指している人たちから送られてきた質問に答えていくというコーナーだ。


 最初このコーナーをやった時は、それほど反響はないだろうと思っていたが、予想を上回る反響を頂いたので、このコーナーは恒例企画になっていた。


 毎回ひとつの質問に答えて、このコーナーは終了する。

 だから、このコーナーの時間は十分〜十五分ほどだ。


 だが、配信についてそこまで話せることがある訳では無いので俺的にはこのくらいの時間がちょうど良かった。


『それではスズが質問を読み上げますねっ!』


 元気のいい声でスズはそう言う。


『配信者として活動するにあたって、個人で活動するか、企業に入るかどちらが良いのでしょうか?』


 俺たち二人は少しの時間頭を悩ませた。


 ありがちな質問ではあるのだが、企業に入ったことがない俺たちからすれば少し難しい質問だった。


 ──まぁ、ここは俺が思ったことを話すか。


『そうだね、やっぱりどちらともメリット、デメリットはあると思うよ。個人で活動するとしたら土台を作るまでに時間がかかるっていうのがデメリット、逆にメリットは自由が効くことかな。』


 俺が話始めると、スズがハッと我に返った様な顔になり急いで話に入ってきた。


 ──こいつ今まで思考停止してたな。


『まぁスズたちは企業に入ったことないから詳しくは分からないけど、今流行りのVTuberとかだったら企業に入った方が強いんじゃないかな?私たちみたいにラジオ風配信してる人とかって初期費用がほとんどかかってないんだけど、VTuberさんってイラスト発注したりでかなり初期費用かかるからねぇ』


 ごもっともな意見だった。


 確かに俺たちみたいなスタイルの配信者はもともとパソコンがあれば、配信用マイクを買うだけでいいからほとんどお金はかからない。


 だが、VTuberとしての形で配信していくなら、すこし事情は変わってくる。


 まず、VTuberとしての自分のイラストを発注して、そしてそのイラストを動かすためにまた依頼する。


 そこでお金がかかるが、企業に入ればVTuberとしての姿を企業側が用意してくれる。


 それに加えVTuberが企業に入る強みは、やはり企業のサポートだろう。


 3D化したい時などは、企業に入っていない場合、チャンネル登録者数が数十万人を超えていなければ3D化するのはかなり厳しいだろう。

 だが、企業に入っていれば、3D化のための費用などはほとんどの場合が会社負担だ。


『VTuberを目指しているなら、活動の幅を広げるためにも、もしかしたら企業の方がいいかもしれないね。個人で活動しているVTuberさんでも、もちろん活躍している人はいるけど、その人たちは計り知れないほどの努力、才能と豪運の持ち主だよ。』


 俺はまた苦笑を浮かべながら、話していく。


『でも、自由にしたいならやっぱり個人かな。僕たちは多分これからも企業には入らないと思う』


『ですねー。まぁこの話はここまでにして、次の企画行きましょうか!!』


 スズのテンションがいきなり高くなる。

 原因は次のスズの企画のせいだろう。


『スズの今日のデザート!!』


 そう言うと、スズは机にあったお菓子をひょいっと持ち上げた。


『今日のスズのおすすめデザートは、もちもちとろーんグミ 幸せのヨーグルト味です!!』


 このコーナーの時は、俺は喋る気が限りなくゼロに等しい程ない。

 それは、こいつが興奮していて俺の話すタイミングがないからなんだが…。


 俺の考えていることを気にもとめない素振りでいつもより早口でスズが手に持っているグミについて語り始める。


『このグミのポイントはまず、今までのグミでは考えられなかった、このとろける食感です!口の中に入れた瞬間グミがとろけ始めます。でも、その中にもグミらしさが残っているの完璧すぎませんか?!この優しいヨーグルトの味も完璧で…。』


 言ってしまえばこれはただお菓子オタクが、自分の好きなお菓子について語るだけの企画だ。


 本当にこの企画いるのか?と一度聞いたことがあったのだが、その瞬間涼香は人間の目とは思えないほど冷たい目をして、殺気のオーラを放っていたので、それ以来おれはこのコーナーについて言及することをやめた。


 スズは喋りきるとうっとりした様な顔のまま、『絶対食べてくださいね!!』と視聴者に圧をかけていた。


 ──もうなんなんだよこいつ。



 そう呆れていられるのも束の間。このコーナーが終わったということは次のコーナーは──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る