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 手紙を受け取りジイさんが中を読む。その間に一堂には微妙な空気が流れる。

 真哉父は腕組みして険しい顔を崩さず、玲児は自分の仕事は済んだとばかりに髪の枝毛をチェックしながら退屈そうに欠伸をした。

 真哉は言葉に出来ない感情を繋いだ手に込めるかのようにギュッと握る。子供の握力でも何気に痛い。

「そうか、真奈さんが……」

 手紙を読み終わり顔を上げたジイさんは、しんみりとした表情をしている。

「俺が世界中を旅している間も、何かと家族の様子を知らせてくれてな。和哉には勿体ない良くできた嫁だ」

「本当にあなたは勝手だな。母さんが生きていた時は家族なんか顧みなかった癖に。写真に没頭した挙げ句、今際の際にさえ現れなかった夫をきっと恨んでいるだろうよ」

 なるほど、そんな経緯があって絶縁状態になったのか。真哉をジイさんに受け渡すのは難しそうだ。

 仕方ない。赤月のスマホに電話をして詳しい指示を仰ぐことにする。

 数回のコールで出た赤月は事情を知ると、ビデオ通話にして依頼人に代わるから旦那を電話口に出すようにと言う。

『依頼人って確か真哉の母親か? 病気で入院してるという』

『病気? 入院してるのは確かだが……。何か勘違いしてるな青木』

 どういう訳かさっぱり分からないが、言われたままに携帯を真哉父に差し出す。

「お取り込み中失礼、奥様が電話に出て欲しいと言ってます」

 ジイさんと醜く言い争っていた香月和哉は妻からの電話だと聞いた途端、明らかに狼狽した。

 そして、留守だと言ってくれと家でも無いのに居留守を使おうとする。

 どうやら俺は思い違いをしていたらしい。

 何故なら、受け取り拒否したスマホの画面には鬼の様におっかない顔をして怒りまくってる女が居たからだ。

『和哉、電話に出なさい! あんた、何でそこに居るのよ!』

『ま、真奈……』

 誰が見ても完全に尻に敷かれてる。真哉のイメージからなる母親像がガラガラと音を立て崩れた瞬間であった。

『今朝病院に来た時に何か怪しかったのよねー。言っとくけど、和哉がお父様と仲違いするのは勝手だけど真哉が祖父に会うのを止める権利なんか無いんだから』

 少し気の毒になるくらい項垂れている真哉父。とても敏腕弁護士には見えない。

 リモート夫婦喧嘩を繰り広げていたが突如、真哉母が呻き声を上げたかと思うと叫んだ!

「あんたのせいよ! まだ予定日じゃ無いのに……う、産まれる〜!」

 何と、真奈は妊婦だったのだ。

 勝手に重病人だと盛大な勘違いをした俺を、赤月は今頃腹を抱えて笑ってるだろう。

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