運び屋SS集
【喫茶】まどろみの日常
①
「マスター、おはようございます!」
従業員の真由ちゃんが元気良く出勤して来た。
「おぁ~は~よう」
俺は欠伸をしながらウチの従業員に返事をすると。
「マスターまた、朝まで瞬介さんの所でポーカーしてたでしょ?」
心なしか責められてる気がするのは、俺の気のせいか?
「ん、何で分かった?」
「分かりますよぉ~マスターの行動なんて」
サラリと恐ろしい事をいうウェイトレスにも珈琲を淹れて煙草に火を着けた時、ドアに付けてあるベルがカランと鳴った。
「いらっしやい。よお、来たな!」
探偵が嬉しそうに頷くと、カウンター席に着く。さっき新作ケーキが出来上がったと連絡を入れたら五分でやって来た。
まあ、道路を挟んだ目の前なんだが。
「おはようございます。赤月さん」
真由ちゃんが何時もの紅茶を運び声を掛けた。
「おはよう、楽しみだなあ。マスターのケーキ」
そう言われると俺も、作りがいがある。
もう、そろそろ来るヤツも俺のケーキが好きなんだが
「困るよ、こっちも交通費とか掛ってるんだからさぁ。ちゃんと規定分払って貰わないと」
隅の席でラーメン・スパイが顧客相手に必死で説得している。
「はい、お待ちどう!」
目の前に置かれたケーキに探偵の瞳がうるみ、フォークでそっと口に運びかけた時。
「ちわ! 啓介叔父さん、来たぜ~」
デッカい声を出して我が甥っ子がやって来た。
「いや~奇遇だな。赤月も来てたのかよ」
わざとらしいヤツめ……さっき、電話した時、確認したじゃねえか。
探偵は嬉しさと不機嫌が同居した、何とも言えない顔をしたのだった。
②
今日も寝不足の目を擦り、ボヤッとしてたら、ウチの従業員の真由ちゃんに怒られた。
「マスターまたポーカーですかぁ? もう、歳を考えてくださいよ。何時までも若くないんですからね!」
ウチで一番の古株である真由ちゃんは、まだ二十二歳の若さでオバサンの様に煩い。
「いや、昨日は瞬の家には行ってない。実家に行ったら引き留められてな……朝まで家族麻雀だよ」
昨日を思い出し、忌まわしい記憶を追い払うかの様に、カップを出し真由ちゃんと俺の分の珈琲を注ぐ。
「そうですか……またカモられたんですね」
真由ちゃんの読みは鋭すぎて、ナイフの如くグサグサと痛いとこを突いてくる。
その時、ドアに取り付けたベルがカランと鳴った。条件反射の様に「いらっしゃいませ~」と言う真由ちゃんのよそ行きの声と営業スマイルに女は怖いと何時も思う。
入って来た客は最近常連になった、瞬と同じぐらいの歳の男とまだ若い、高校生ぐらいの男の子だ。二人とも、モーニングを注文して窓際の席に着く。
「レイ、昨日独りで仕事に行っちゃうんだもんなー」と男子だけど可愛い子が言えば。
「しょうがないじゃない。真琴が寝ちゃうんだから」と年長の切れるような美人な男が返す。
あれ? そういえば男の子の方は、前に瞬と待ち合わせしてた様な気がするんだがな? 妙に色っぽい姉ちゃんと一緒に。
ジッと2人を見ていたらハタと思い当たり、口をポカンと空けてたら、真由ちゃんが呆れた様に俺を見てる。
「マスターシャキッとしてくださいよ!」
今日もまた、店名通りのマスターにカツを入れつつ頑張る闘うウエイトレス真由であった。
③
明日は店の定休日。真由ちゃんは、どこかウキウキしている。
「なんだ、真由ちゃんは明日デートか?」
店仕舞いをするために看板の電気を消し、真由ちゃんに「お疲れちゃ~ん」と声を掛けたついでに聞く。
「違いますよー。明日は猫ねこダンサーズのライブを見にいくんですよぅ~」
成程。だから猫の被りものとホワホワした猫の手袋をさっきからいじって居たのか。
「あ~楽しみだなぁ。マスター知ってます? 猫ねこダンサーズを」
そんな事云われても分かるか! と、一度は言ってみたい今日この頃。
「んー。分かんないなぁ~」
と言ったら、おもいっきり馬鹿にした様な顔をされた。
「マスターは世間に疎すぎますよ。このままでは早くお爺ちゃんになっちゃう」
なんで猫ねこ何とやらを知らないと、お爺ちゃんになるんだ? 釈然としない俺を残し、真由ちゃんは浮き浮き気分で帰って行った。
「啓介叔父さん、聞いちゃったよー。猫ねこダンサーズ知らないんだって?」
いつの間に居たのか、瞬介がニヤニヤして立っていた。
「瞬は知ってるのか?」
意外な事に、甥の瞬介は猫ねこなんとやらを知ってるらしい。
「もちろん! だって可愛い子達が猫耳と猫っ手で踊り歌うんだぜ。知らない訳がないだろ?」
と熱く語りながら、瞬はピラッと二枚の紙を取りだしヒラヒラさせて言った。
「なあー。啓介兄、行こうぜ~」
コイツが兄と言う時は要注意だ。何か企んでるに決まってる。
「いやぁ~残念だな。明日は約束が……」
「じゃ、決まりな! 明日迎えに来るから。啓介兄支度しといてくれよ」
ちっとも人の話しを聞かないところは姉さんにソックリだ。
溜め息を付き、諦めて行く事にした。
――次の日――
俺と瞬介は猫ねこダンサーズのライブに行った。
そして……見事にハマった。
今は周りが呆れる程の猫ラーである。
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