8

「真哉、やっとジイさんに会えるな」

 待ち合わせ当日。

 俺と真哉はホテルのロビーのフカフカ沈み込む上等なソファーに座り、待ち人が来るのを今か今かと待ち望んでいた。

 真哉は緊張してるのか、小さな手でズボンの膝を皺になるぐらいギュッと掴んでいた。

 玲児とは距離を置いて座る。若い男と子供を連れてるとジイさんが警戒すると思ったからだ。

 やがて玲児がスマホを見ると立ち上がり入口に向かって歩き出した。

 見ると大股で玲児に近づいて来る男がいる。

 年齢よりも若々しく大柄な男が玲児を認めると人目も憚らず抱き寄せ熱い抱擁を交わした。

 思わず隣に座っている真哉の方を伺うが、ビックリするでもなく大人しくしている。逆に俺が慌ててるのを見て不思議そうにしている。

「真哉、行くか」

 頷く真哉の手を取りジイさん達の所へ近付いて行く。もう少しでジイさんにバトンタッチ出来ると思うと頬が緩みそうになる。

 だが、そう上手く事が運ばなかった。

 背中に刺すような視線を感じるや否や振り返ると、高そうなスーツをビシッと着こなし鋭い眼光を眼鏡の奥から飛ばしながら男が立ち上がり憤懣やる方ないとでも言いたげに近付いてくる。

 その時、真哉が呟いた。

「お父さん……」

 は? お父さんだって?! どういう事なんだ? 修羅場になりそうな予感に慄いていると真哉父は真哉を一瞥して首を横に振るとジイさんと玲児の所へ一直線に歩いて行く。

 そうとも知らずにジイさんは、お気楽に玲児と手を握ったままイチャついていた。

「父さん。あなたという人は……」 

 何だか一悶着ありそうで、厄介を通り越して楽しくなりそうな予感がしたので真哉を連れて現場へと向う。

「あら、トウヤさんの息子さん?」

「あなたは父とどんな関係なんですか? 父さん、年甲斐もなく自分の息子より若い女と……」

「和哉、久しぶりだなー」

 物凄く話が噛み合って無い。必死なのは真哉父だけで、本来修羅場の筈のこの空間にはノンビリとした空気が漂っている。

「うーん、どんな関係と聞かれても……。オトモダチ?」

「そんなぁ。レイちゃん、つれないなぁ」

「いい加減にしてください! あんたが何をしようが構わないが、孫の前ぐらいはちゃんとしてくれよ!」

「……孫? そりゃあ一体どういう事だ?」

 絶好のチャンス到来だ。真哉の手を引いて一堂の前に進み出る。

「鏑木柊哉さん。香月真奈さんの依頼でお孫さんである香月真哉君をお届けに参りました。本来なら父親である香月和哉さんを抜きにとの条件だったのですが、思わぬアクシデントがあった訳ですが……。どうしますか? 良ければ受け取りにサインお願いします」

 真哉母からの手紙と一緒に受け取り票を差し出した。

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