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「うん、まぁ、口で説明するより見てもらった方が良いか」

 奴にしては歯切れ悪く言って奥の部屋へ行き俺を呼ぶ。初めて入ったそこは休憩する場所の様だ。小さなテーブルと椅子に仮眠できるようにベッドがひとつ置いただけの簡素な設えの部屋だった。

 そして、そのベッドに腰掛けて居たのは小学校低学年ぐらいの男の子で、その小さな手には不釣り合いな程の大きな本を抱きしめている。

「はじめまして、僕は香月真哉こうづきしんや小学二年生です。これからお世話になります」と挨拶をし、そのちっこくて礼儀正しい子供はペコりと頭を下げた。

 俺が仰天して金魚の様に口をパクパクさせていても赤月は気にもせずに話しを進める。

「依頼人は彼のお母さんだ。運ぶのは真哉君で、行き先は父方のお祖父さんの所まで。お母さんは今入院中のため付き添いは出来ない。依頼を受けてくれるか?」

 俺はてっきり母親が入院してるから夏休み中祖父宅に預けるのだと単純に思っていた。

 だから続く説明に、今日この場所に来たことを軽く後悔をした。

 夏休みは当たっていたが、二週間という決められた日数で、そもそものジイさんが何処に居るか分からないために捜し出してから孫と初対面させる。

「そして、この事は父親は一切知らない。そもそも彼らはずっと昔から親子の縁は切っていると言っていた。その為に二週間は母親の妹である叔母の家からボーイスカウト等の活動をしている事になっている。だから訴えられることも無い……はず」

 なんか随分間が開いた様な事を言っているが、まぁ良いか。

 問題は小さな人間と暮らしたのは随分昔だって事だ。そしてその頃は俺も立派な子供だった訳で。果たして面倒を見ることが出来るのだろうか。

 だが何とかなるだろう。ジイさん捜しは赤月がやるだろうし、さっきの挨拶からして賢そうな子だから暴れたり泣いたりはしないと思う。

 報酬も親が金持ちだからか満足いくものだった。

「彼のお祖父さんを見付けたら連絡する。それまで真哉君を頼んだぞ」

「おう、任せとけ。じゃ真哉行くか」

「はい。赤月さん、おじいちゃんの事よろしくお願いします」

 またしても模範解答の様な挨拶をして、ぴょんとベッドから飛び降り俺のそばに来ると手を握って来た。いきなりで心の準備が出来てなかった俺がビクッとしたら真哉はすまなそうに謝った。

「あの僕、知らないところに来たら手を握りなさいって、お母さんに言われてて……迷子にならないように」

「気にするな。ちょっとビックリしただけだから大丈夫だ」

「うん、その方が安全だね。瞬介パパの言う事を良く聞いていい子で居るんだよ」

 赤月は凄く楽しそうに言った。

「パパは止めてくれよ。この子が産まれた時、俺まだ高校生だぜ」

「じゃあ、おじさん」

 どうやら俺で遊んでるらしい。でも奴のそんな楽しそうにしてる顔を見たのは久しぶりだから、それでも良いかと思ったのだった。

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