ACT1
1
耳慣れた着信音が鳴って、俺の意識は急速に覚醒した。007のテーマが鳴り響き、二日酔いの頭がぐるぐる回る。
「はい。こちら迅速、安心、確実が……」
『お題目はいい。仕事だ』
スマホの画面で探偵のハリウッドスターの様な顔がニッコリと微笑んでいる。
奴は自分の容姿を心得ていて、最大限に活用出来る人間だ。つくづく生きる道を間違えたとしか思えない。
役者にでもなれば今頃アカデミー賞の1つでも取れていただろうにと思う。
などと心の中でつらつらと考えていたら、あろう事か奴は舌打ちをすると「余計な事は考えないで良いから直ぐに来い」と通話を一方的に切った。
いつもの事ながら愛想の無い奴だと、悪態をつきながらシャワーで前日のアルコールを流し、タップリ小一時間程かけて身なりを整えてスマホを確認したらメールで罵詈雑言を書き散らしているじゃないか。
愉快になった俺は依頼人の代理である探偵、
◇◇◇
「で? 何で徒歩10分の君のマンションから1時間以上も掛かったんだ? 私は直ぐに来いと言った筈だけどな」
赤月は嫌味ったらしく言ってその眉目秀麗な顔を歪ませた。
「長い付き合いなんだから、俺が支度遅いの知ってるだろ? それで依頼は何を運ぶんだ?」
運び屋なんて稼業をしてると、そりゃあ色々な物(者の時もあるが)を扱う。
が、法に触れる様なモノ(薬とか拉致)は丁重にお断りさせてもらっている。
それだったら『運び屋』じゃなく『なんでも屋』でも良いじゃないかと言われそうだが、基本俺は人が喜ぶような事がしたい。
でもって、格好良いのが一番好きだ。『なんでも屋』さんには悪いが、『運び屋』何と素敵な響きなんだ!
「
出たよ、奴お得意の読心術が! 赤月とは大学からの付き合いだが、当時からその能力はあった。それなのに気味悪がれる事を気にする訳でもなく隠す事もなくさらけ出して来た。
もちろん言う、言わないの人選はしただろうが、余りにも無防備過ぎる。
「はぁ…………もういい加減にしてくれないか?」
あまりにも深いため息をつかれた俺は我に返って反省し、今度こそちゃんと話を聞こうと背筋を伸ばしたのだった。
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