2話 タイーホ


「いい?監視カメラの位置を全て覚えてるっていうなら犯人はもう一度来るに決まってる」


 とんでもない作戦を言うと、ユカはパニックになる私を無視して説明を口にする。


「でも、警備もあるし再犯なんてありえるかな?」

「ありえるよ、厳重警備って言っても内側じゃなくて外側、内部の人間の犯行を知らないから警備はない…ね?」


 確かに…そうだ。

 それなら犯人が再犯する可能性も多いにありえる。でも、なんで?と疑問符が湧いた。


「それで、どうしてこっちが盗撮するなんて事になるの?」

「そりゃあ、ハルが学園を駆け回ってたら犯人が警戒して現れないでしょ?それだったら先に罠を張っておけば良いんだよ」


 罠?

 どうやって?と疑問符を浮かべて首を傾げる私。ユカはスマホで何かを検索していて…画面に出たのを私に見せた。


「防犯カメラ…」


 スマホに写るのは小型のカメラだった。

 ああ、こっちも盗撮ってそういうことかと悪戯っぽく笑うユカを見て私もニヤリと口角を歪めた。


「先に仕掛けておけば…」

「犯人の姿を見る事ができるってわけ!」


 しししっと愉快そうに笑う私達。

 これで上手くいけば犯人は捕まえられるかも知れない。そう確信した私は防犯カメラを数台通販で購入した。

 そして、カメラを更衣室の中に隠してから数日後…また盗撮事件が起きた。



「あらら、また起きたのか…」


 生徒会室にて、生徒会長であり姉のユリが困ったように頭を掻いていた。

 対して私は余裕の笑みを浮かべる。

 それは勝者の余裕というやつで、犯人確保が目前に近付いていることに笑みが隠せないでいた。


「お姉ちゃん安心して、また再犯すると思って罠を仕掛けてたの!」


 ふふんって自慢げに姉に報告して、持ってきておいた防犯カメラを姉の前で見せつけた。


「なにこれ?」

「防犯カメラですよ!更衣室に隠しておいたんです、このカメラには犯人の姿がきっと写っています!!」


 これで私の勝ちだ犯罪者め!そう胸を張って録画を見たのだけれど…。


「これじゃ姿が分かんないな」

「そう、ですね……」


 結果は犯人は顔と身体を隠していて、その素顔を見る事は叶わなかった。

 黒マスクとサングラスにニット帽、特徴を全て隠されていて、そこから特定するのは難しい…のだけど。


「女性だよね?」

「そうだな、体のラインがすっきりしている…」


 犯人は男じゃなくて、なんと女性だった。


 歳は多分私達と同じ。

 元々犯人は教師の中じゃないのかと疑ってたけど、犯人の背格好を見て生徒の中なんじゃないかという結論になった。

 到底信じられないけど、もう飲み込むしかない…。盗撮は盗撮、犯人は捕まえるべきだと私は決意してもう一度犯人の特徴を見る。


 犯人のカメラは結構大きくて、すごく高そうだった。

 素人の私でも高そうだと感想を抱くくらいのもので、多分相当な金持ちなんだろうなぁと羨ましく思った。

 それと、カメラケース。

 色は黒で鞄のような見た目でそれなりに大きい……。


「あれ…」


 どこかで、見たことがあった。

 昔というより、つい最近………もしかして。


「……嘘でしょ」

「ん?犯人が分かったのか?」


 何かに気付いた私にお姉ちゃんも気付く。

 けど、私の表情が暗く青ざめている事には気付かなかった。

 信じられないけど、あの人だ。

 どうしてこんな事をしたのか分からないけど、犯人に辿り着いた私が今やるべき事は捕まえる事だけ。


 震える身体を抑えて、姉の方へと振り向く。


「犯人が分かったよお姉ちゃん」



 よし…と身体を確認する。

 どこも違和感はない、これなら誰にもバレないだろうと犯行を終えた私は寮へと帰宅する。

 その時だった。


「待ってください」


 私を静止させる凛とした鋭い声。

 その聞き慣れた声に私は声の方へと振り向く、そこには可愛い後輩…ハルちゃんが立っていた。


「どうしたのハルちゃん?」


 柔らかい声音で彼女を撫でる。

 けれど、いつもなら笑顔になるはずのハルちゃんはキッと睨むように私を見つめていた。


「まさか、先輩が犯人とは思いませんでした」

「…!」


 犯人…そう告げられて、揺れた。

 そして、これが決定打になりハルちゃんは悲しそうに表情を歪める。


「図星ですか…なんで、なんでこんな事したんですか?先輩!!」


 責め立てるようにハルちゃんが私に向かってくる。けど、それを止めるようにユリちゃんがハルちゃんの腕を止めた。


「ユリちゃん…」

「バレてしまったな」


 ははっと乾いた笑みを浮かべて、ユリちゃんは私を見つめる。


「!?…お姉ちゃん知ってたの?」

「まあ同室だから知ってるに決まってるじゃん。それで?どうすんのユキ」


 どうすんの?と問われて心臓が跳ねる。


「……それは」


 

 私は生まれながらにして天才だ。

 ありとあらゆる才能を持ち、そして誰もが私を称賛した。

 まさに順風満帆、素晴らしい人生とはこの事だろうと誰もが言った。

 けどさあ?何か物足りない、すごく物足りない。


 そして、その欲が今も足りないと急かしてくるの。


 ユリちゃんは「どうすんの?」と尋ねた。

 それはこれからどうするべきか?という質問で私はもう今の私には戻れないだろう。

 ならどうするか?答えはもう決まっている…私は、私は!!



「なあハル」

「なに…お姉ちゃん」

「黙ってたんだけどさ、いつものユキって外面を被ってただけなんだよ、それでさ?その本性は……」


 まるで達観してるみたいにユリちゃんは言った。

 困惑するハルちゃんを他所に、溜息まじりにユリちゃんはそのまま告げる。


「超弩級の変態なんだよ…」



 

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