わ……うぅ。わわん

副音声:ちゃらりーん♪ちゃらッちゃらッちゃらッちゃらッちゃッちゃッちゃッ♪



【第⑤わん! ポチ、衝撃を与え驚愕するの巻】



 ポチが初めて魔獣と遭遇してから数日経った。そして自分には魔術の才能が全くないと改めて考え出していた。

 それこそ、まだ諦めてなかったのかとツッコまれそうだが、ポチがヒト種だった頃は「魔導工学」なんてモノはなかったし、「虚理の原則」なんてモノも証明されていなかった。

 そもそも前にいた世界に於いては誰しもがマナを使え、誰しもがオドを持っていたので、魔術が使えないなんてコトを信じられるワケもなかったのだ。

 よって諦めの悪いポチの、そんな日のお昼過ぎ。


 いつものように午前中に気が向くまま縄張りを散策して走り回り、昼前には一度家に戻って出された昼食ドッグフードを食べ終えた直後だった。



『な、なんだ、この身体を奔る激痛はッ』

『くっ、か、身体が動かない。こんな痛み、過去の人生において味わった事は……ある。が、まさかこんな獣の姿になっておるのに吾輩を警戒している者がいるというのか?!』

『まさかとは思うが、先程食べたモノの中に、ど、毒がッ?!そうなれば、犯人はやはり、あの巨大巨人族ティタニア……ではなく、ヒト種の老夫婦か』

『い、いやいやいや、そんなまさか。だが、家畜は丸々と太らせてから食されるというし』


 ポチは足をプルプルさせていた。ちなみに、ポチは丸々と肥えてなどいないし標準体重よりも少しだけ少ないくらいなので、適正値の範囲内だ。

 だが本人は多少、身体が重くなった感じはしていた。拠って飽くまでも妄想である。


 然しながらそれは突然襲って来た激痛であり、原因は分からない。だからこそ疑惑の目を向けたくなるような痛みだったとも言い換えられる。だが心当たりがないのも事実だった事から、その疑惑が自分以外に向けられるのは自明の理だ。

 まぁ、殆どの場合、自分が全て正しいと思ってる為に、心当たりなぞある訳もないのだが、そこんところは察してやって欲しい。「あったとしても、自業自得だ」と。


 さて、話しを戻すと、ポチはそれ突然の激痛によって四肢で立っているのもやっとだった。

 更にそれは治まる事なく、そうこうしている内にも激痛は更に悪化していったのだ。



ばたっ


“ポチ!どうしたのポチッ”


『はぁ、はぁ、はぁ。わ、吾輩……もうダメかもしれん。どうやら、毒を……毒を盛られてしま……』


 元気だったポチが突然倒れた事は母親に衝撃を与えた。母親はポチが言い残した事が全くもって理解不明だったが、倒れた事は事実であり呼吸も苦しそうだったので、直ぐに飼い主である老夫婦を呼びにいったのだった。


 老夫婦は母親に袖を引っ張られ、強引にポチの元まで来させられると、ぐったりとしているポチの姿に泡を喰ったように慌て、ポチをゲージに入れると直ぐに家を出ていったのである。




『う、うぅん、なんだ……ここは?白い部屋?』

『ッ?!なんだ、この新たな巨大巨人族ティタニア……じゃなかった、このヒト種は!?』

『ここは、家ではないのか?そうだ、吾輩は激痛で倒れた。それでどうなったのだ?』


 ポチの前に立つのは白衣の男で、ポチがいる場所はこれでもかと言わんばかりの白い部屋だった。更には天井にある灯りが異常に眩しい気もする。それが白を誇張表現しているのかもしれない。

 白衣の男は眼鏡を掛け、その眼鏡が光を反射し怪しく輝いているように見えた。口元も僅かに歪んでいる様子だ。なにやらコトやコトを考えているようにも見受けられる。



 色味が全く無い部屋にポチは寝かされているが、先程まで襲っていた激痛は若干和らいでおり、そのせいで失った意識は取り戻す事が出来ていた。辛うじて意識を取り戻したポチは、新たに自分が置かれた状況を確認しているのだが、ポチの視界に飛び込んで来たのは得体の知れない筒だった。

 そして、それは自分の方に向けられている。



『な、何をする気だ!?そ、その筒をどうするつもりだ。止めろ、ヤメロ、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』


ぶすッ


『――――――はぅっ』


じゅる


『く、屈辱……。こ、こんな屈辱を味わった事など、生まれてこの方なかった。吾輩、そんなモノを刺されるくらいなら、死んだ方が……』


じゅるる


『――――あぁっ』

『そ、そんなところから何を入れてるのだ……吾輩の身体の中に変なモノうぉッ!!』


ぎゅるるるるるるッ


『な、なんだ?あの筒の中身は……ど、毒なのか?先程の激痛が再びッ。全てはこの男の陰謀だったのだな?ぐっ、それにしてもなんなのだこの痛みはッ!もはやた、耐えられん。意識が飛……ぶ』


がくッ




 ポチはただの便秘だった。それだけだった。ただ、ヒト種から犬に生まれ変わった事でトイレの仕方が分からなかった事と、食べ物がドッグフードになった事が大きな原因と言えるかもしれない。

 ただそれだけだ。


 お尻から浣腸を刺され、痛みに因って再び意識を失ったポチは大量に、意識を失っていた事が災いしてトイレトレーニングは進まず、これより先、度々浣腸のお世話になる事になった。


 尚、今回の激痛は全て白衣の男の陰謀だと誤認するきっかけになったのもまた事実であって、白衣の男に拠って植え付けられた屈辱と、怒りといった様々な感情はこれより度々起きる事になる同様の現象便秘に因って、重度の恐怖心へと塗り替えられて行く事になる。


 ポチはこれより、白衣を見る度に恐怖心を煽られ四肢がプルプルと震え、顔を背け自動的に耳を下げて恐怖心と必死に闘う事になるが、その姿に千勝の覇者ウォーロードの威光は見る影もないのは明らかだろう。

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