吾輩は犬である。名前はジョン・ジョージ・エドワード・アームストロング・ムスカディ・エルゴーロード・カイマンデイ・ムッチャラパーナム・ウンチャラカンチャラ・テケレッツノパー・エルリックロイ・ラ(以下略)

酸化酸素 @skryth

長い長いわんわんプロローグなのである!

第➀わん! ~プロローグなのである~

 ある日、一人の王が死んだ。


 それは痛ましく凄惨な事件などではない。

 長年闘病し病床で家臣達に看取られるなどでもない。

 配下によって寝首をかかれたなどでもなく、可憐な傾国の美女によって、ありとあらゆるモノを吸い尽くされた上での自死などでもない。


 まぁ、強いて言えば三番目が非常に近いが正解ではない。

 そんなこんなで一人の王が死んだのだった。


 彼の者の名前は『ジョン・ジョージ・エドワード・アームストロング・ムスカディ・エルゴーロード・カイマンデイ・ムッチャラパーナム・ウンチャラカンチャラ・テケレッツノパー・エルリックロイ・ラキライキライライラック・デーンナンダム・ミピッピピッピッピ・ハイラキュース32世・ハールーンウォーロード・エ・ラ・アーステルダム2世』と言う。



 彼の者は北の大陸、アーステルダム王国の世継ぎとして望まれて生を受けた。

 父を当時の国王、「武神帝王カイザル・アルマータ」アレクシス・エ・ラ・アーステルダム。

 母を当世の美女、その美貌には花も恥じらい、月もその身を隠すと謳われたユスティーナ・エルム・アーステルダムに持っている。

 恵まれた家系に於ける望まれた子供だった。



 彼の者が10歳の頃には王太子でありながら、ありとあらゆる剣技、槍技、弓技、斧技などの大家の師範から免許皆伝を戴く程に成長した。

 15歳になる頃には己の属性であった「火」属性の魔術を極めた。

 その才覚には時の賢者、ラルフ・ウォーレンスも兜を脱ぐ程であったと言われている。そして、彼の者が18歳になる頃には、帝王学、軍略、政治学、果ては心理学、医学にも精通した。

 だから、才覚だけで言えば、父である「武神帝王カイザル・アルマータ」すらも凌ぐ智力と武力を兼ね備えていたのであった。


 父親譲りの才覚と、母親譲りの美貌を併せ持つ真なる才色兼備の青年として、初めて戦場に立ったのは21歳を迎えた頃だ。



 初陣に於いて、彼の者は名だたる敵の将軍を単騎のまま次々と屠り、更には策を仕掛け、罠を仕掛けて敵を次々と嵌めていった。

 敵兵を殲滅すると自軍の損害を2桁に抑えながらも敵の砦を攻略せしめたのだった。

 そして、それを幾度となく繰り返した結果、彼の者に因って幾つもの国が滅び、幾つもの国がアーステルダム王国の属領となり、大勢の民が血と汗と涙を流す事になった。


 彼の者のその極めて多い戦功に拠って、自軍からは讃美歌と共に讃えられ、敵軍からは恐れられ畏怖の念を持って、「千勝の覇者ウォーロード」と呼ばれるようになった。

 そしてそれらの威光と遺恨は、吟遊詩人達の手によって大陸を越えて幅広く知られていったのだ。



 その頃、アーステルダム王国は北の大陸の覇権を競っており、周辺各国を武力制圧し次々に属領を増やしていた。

 北の大陸のほぼ半分を勢力下に置き、属領に対しては重税と賦役を課した。

 更には度重なる徴兵を行い次の侵略戦争に備える………といった強圧政治を属領に対しては行っていた。

 だからこそ民草からの不平不満は尽きた事がなかった。

 その反面、は善政を敷いていたので、民草達の賛否は完全に二分割されていたのは言うまでもないだろう。



 更に「北の大陸の覇者としての格」を内外に示す為に、アーステルダム王国が次の標的としたのが、北の大陸の3分の1を手中に収めていたイオアーニャ皇国であった。



 イオアーニャ皇国としては、アーステルダム王国からの宣戦布告を受けた途端、騒然となったのは言うまでもない。

 アーステルダム王国の兵数15万に対し、イオアーニャ皇国の兵数は3万。

 イオアーニャ皇国の隣国、カトゥヴィーツ狼国、リエッカ竜国、ジェーラ森国の同盟諸国から兵士を借り受けられたとしても、総兵力で5万を捻出出来るかどうかと言ったところだった。



 宣戦布告に示されている日時まであと1ヶ月を切った頃、イオアーニャ皇国は敗戦濃厚の下馬評でありながらも起死回生の策を取ったのだ。

 それは、「武神帝王カイザル・アルマータ」アレクシス・エ・ラ・アーステルダムの暗殺であった。



 イオアーニャ皇国が行った暗殺………それは、厳密には暗殺ではない。

 何故ならば、厳戒態勢で入国者への検閲を行っている国に入った上で、厳重に警備されたアーステルダム王国の王宮に侵入する事は至難だからだ。

 更に言えば、「千勝の覇者ウォーロード」の護る王の寝所に辿り着き、その上で「千勝の覇者ウォーロード」と互角に渡り合える「武神帝王カイザル・アルマータ」を暗殺する事は不可能としか言えないだろう。

 それこそ、誰もなし得たことの無い魔術である「完全不可視化コンプインビジブル」でも使えなければ潜入は困難だ。

 だからこそ誰もなし得たことの無い魔術に頼らなければ、なんとかならない程に不可能といえる行いだった。


 拠って、暗殺は物理的な暗殺では無く、呪術を使ったモノが採用される事になった。



「「武神帝王カイザル・アルマータ」の暗殺を。願わくば、王国が根絶やされる程の呪術を」


 イオアーニャ皇国の皇帝は呪術師に対してそう申し伝えていた。イオアーニャ皇国皇帝からのみことのりに拠って集められた呪術師は、国内外から30名ほどだ。

 しかし皇帝からのみことのりを聞いた呪術師達の殆どは顔を青褪めさせていた。それは即ち、この場に来てしまった段階で自分の死を覚悟しなければならないからだった。


 もしもこの場で断ればそれは直ぐに自分の死を意味する。

 もしも仮に「武神帝王カイザル・アルマータ」の呪いに成功すれば、それこそ死に物狂いで「千勝の覇者ウォーロード」は、単身でも父王の呪いを解く為に犯人を殺しに乗り込んで来るだろう。


 呪いが成就して「武神帝王カイザル・アルマータ」が死ぬまでの間、「千勝の覇者ウォーロード」から逃げ切れるかと問われればそれは限りなく困難だ。

 もし仮に逃げ切れたとしても、そこで「千勝の覇者ウォーロード」が追うのを止めてくれる保証などない。

 地獄の果てまで追い掛けてくる可能性だってある。

 だから結果としてやはり殺されるのを待つ事になる。


 更には王国が根絶やしに出来る程の呪術を使えば、それは最終的には自分に降り掛かる毒の花であり、結果としてやはり死を意味している。


 結論として待っているのは「死」のみであり、その為にその場に来た呪術師達は皆、顔を青褪めさせる事しか出来なかった。


 先に死ぬか後で死ぬかダイ・オア・ダイの瀬戸際で、呪術師達は決断に迫られ自死する者、決断に至れず兵士に連れて行かれる者、呪殺を試みる者に分かれた。

 そして、皇帝の前にいた30名からなる呪術師の面々は残す所5人まで減っていた。

 後の25人は既に死亡が確認されたのだった。



 自死した者、8名。

 決断出来ず抵抗し、兵士に拠って連れていかれ殺された者、5名。

 25名のうち残りの12名は「武神帝王カイザル・アルマータ」の呪殺を試みたが、そのことごとくが呪術を返され返り討ちにあっていた。


 呪術は成功しなければ、自分に返ってくるハイリスクな技術だ。だから高位な呪術師程、そのリスクを極力減らした上で術を行使する。

 しかしこの極限とも言える状況下に於いては判断力を擦り減らした結果、呪術は成功しなかった。

 更には自分が放った術に拠って自身が呪殺されると言う結果をもたらしたのである。



 だが、呪術が成功しなかった根本的な原因は「武神帝王カイザル・アルマータ」の妻、ユスティーナ・エルム・アーステルダムの誓いイウジュランにあったのを、この場にいる者達は誰も理解していない。


 ユスティーナ・エルム・アーステルダムはその美貌故に、その美貌しか

 しかし本人は結婚と共に退官してはいるが最高位の神官ビショップの位を持っている。

 それ故に、夫との結婚に於ける儀式の際に、神に対し誓いイウジュランを立て、その誓いイウジュランは神に拠って承認され、それが加護ブレスとなって夫を呪術から護っていたのだ。


 彼女の立てた「誓いイウジュラン」は、「健やかなる時も病める時も夫を愛し、死が二人を分かつ事」だ。

 よってそれは夫の死はユスティーナの死を、妻の死はアレクシスの死をそれぞれ意味する一蓮托生の「誓いイウジュラン」だった。

 そして、その「誓いイウジュラン」を夫であるアレクシスは認めたのだ。

 故に神は加護を授けていた。


 拠って呪術師達の呪術は即ち、最高位の神官を呪殺するに等しい力を有しなければならない事に等しく、結果として全てが跳ね返ったのだ。



 残された5人の呪術師達は戦々恐々としていた。結果として目前に迫り、待ち受ける「死」に対して恐怖したのだから当たり前だろう。

 5人のうち1人は発狂した。

 5人のうち1人はこの場から逃げる事を画策したが逃げ切れず殺された。

 5人のうち1人は玉砕覚悟で呪術を放ちモチロン玉砕した。

 5人のうち1人は命乞いをしたが認められる事なく殺された。

 5人のうちの最後の1人は、皇帝に提案をした。



「「武神帝王カイザル・アルマータ」を呪殺する事は難しいようです。ここにいた呪術師達は界隈では著名な人物達でした。なので、ワタクシにも対象を呪殺する事は難しいと思われます」


「なので、ワタクシめに提案がございます。対象を直接呪殺出来ないならば、「武神帝王カイザル・アルマータ」を殺せる人間を呪術にかければ宜しいのです」


「なのでその息子「千勝の覇者ウォーロード」に呪術をかけ、「武神帝王カイザル・アルマータ」を殺させるのはどうでしょうか?」


 最後の1人は必死に考え、今すぐに自分が殺されない方法を思い付き、皇帝に対して提案していった。



「面白い。やってみせよ」


 皇帝は最後の1人の提案を飲んだ。そして、最後の1人の呪術が行使され「千勝の覇者ウォーロード」は呪いに掛かったのである。

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