第2話 泣き笑い 乾いた笑い

 どっひょひょひょひょ

 まさかの第2話。

 こんな謎の選手権にお付き合いいただいているアナタは、よっぽどの笑い声フェチですね。まだまだ続きますよ。

 どっひょひょひょひょ


 続いてシーン3のテーマは、『泣き笑い(嬉しいver.)』です。

 勇者一行の専属まかない料理人として、悪の大魔王討伐へと旅立つ夫を、心配な面持ちで見送った妻のエミリー。

 数日が過ぎ、深く厚い雲に覆われていた空が青く澄み渡ると、見事大魔王を討伐した勇者一行が帰還したが、そこに夫の姿は無かった。

 話によれば、最終決戦で暴走した大魔王が、後方支援をしていた夫の所までせまってきた。その時、夫は大魔王を羽交い絞めにし、「妻に愛していると伝えてほしい」と言い残し、大魔王と共に地下深くの黄泉へとつながる闇の裂け目へと落ちていったとか。

 相打ちとなり、命を懸けて世界を救った夫は英雄と称えられたが、エミリーは泣き崩れ夫の死を悲嘆ひたんした。


 それから1年が経った頃。


 未亡人となった妻エミリーは街から離れた片田舎で、夫と一緒に開くはずだった食堂を一人で営みながら、愛犬ベスと共に細々と慎ましい暮らしをていた。そんな彼女が仕事の合間をぬって、畑で農作業をしていた時の一コマです。

 それでは、はりきってまいりましょう。

 よーい、スッタート!


(わんわんわんわん!)


「もー。ベスったらそんなに吠えてどうしちゃったのよ。今、このゴンゲラ薬草の苗を植えたらすぐにご飯あげるから、もう少しまっててね。

 あっ、山ダコの芽が出てるわ。そういえば、一年前にあの人と一緒に種を植えたんだっけ。コリコリとした触感がおいしいって、あの人とよく食べたんだったわ。これを食べた時のあの人ったら、すっごい笑顔で・・・

 でも、どうして今頃になって芽が出てきたのかしら、不思議ね。


(わんわんわんわん!)


 わかったわよベス!すぐご飯にしましょうね。

 あら、お客さんだったの?お待たせしてすみません。今、、、


 う、嘘でしょ?本当に、、、本当にあなたなの?

 これは幻?いいえ。この顔、首、肩、腕。確かに触れる。

 ちゃんとそこにいるのね。


 あ”ーうぉんうぉんうぉん


 生きていてくれてたのね。

 よくぞ、よくぞ、、、、


 あ”ーひぇっひぇっひぇっ


 どうして連絡くれなかったのよ!

 急に来てもご飯の用意が無いから、ベスと半分こよぉ。


 う”ーひぇっひぇっひぇっ」


 ハッピーエンドでよかったですね。きっとこの後は、二人で激しく燃え上がったことでしょう。

うっしっしっしっ。


 続いてシーン4のテーマは、『泣き笑い(悲しいver.)』です。

 青森に住む、18歳のエミリーは東京の大学に合格して上京することとなった。

 高く降り積もった雪が溶け始め、桜のつぼみが付き始めた3月下旬、大きな荷物を担いだエミリーが、母親に駅のホームまで見送りに来てもらった時の一コマです。

 それでは、はりきってまいりましょう。

 よーい、スッタート!


(発車ベル ジリリリリリリ)


「おっかあ、みおぐりんぎでぐれであんがとぉ。

(お母さん、お見送りに来てくれてありがとう)


 おらぁ、いっぱしのお医者様んなって、ここさ帰ってくんかぁよ。

(私、立派なお医者様になって帰ってくるからね)


 すげねぇなぐでねぇ、おらまで、悲しくなっど。

(淋しいと泣かないで。私まで悲しくなっちゃうわ)


 わらっでおわかれすんど。

(笑ってお別れしましょ)


 ぐひゃひゃひゃひゃ


 たっしゃでなーおっかー。

(元気でね。お母さん)


 ぐひゃひゃひゃひゃ


 かぜっこひぐでねぇどぉー」

(風邪ひかないようにね)


 あー、行っちゃいましたね。3月4月は出会いと別れの季節。この先、彼女にいい出会いがあるといいんですけどね。

 まー大概はあれですよ、東京の人の多さに圧倒され、空の狭さに嘆き、一旦ホームシックで、枕を濡らしてからの恋をして、化粧をし出して、遊びに夢中。

 それから悪い男に騙されて捨てられてから、ようやく本来の目的を思い出してからの、勉学に励むパターンね。

 あ、それは私だけか。失礼しました。

 ふぁっふぁっふぁっ


 続いてシーン5のテーマは、『乾いた笑い』です。

 ヤンチャ盛りの3人の子育てに奮闘しながら、クリーニング屋のパートにいそしむエミリーが、忘れ物を取りに家へ戻ると、誰もいないはずの寝室から物音がした。

 恐る恐る扉を開けてみると、そこにはベッドの上で夫と見知らぬ女が裸で肌を合わせている現場を目の当たりにしてしまった。

 一瞬目をカッぴらき、表情をこわばらせた妻はベッドの横まで歩いて近づくと、よがる女に夢中だった夫はそれに気づき、上半身も硬直した。

 驚愕な表情を浮かべる夫とは対照的に、エミリーは静かに落ち着いていた。


 それでは、はりきってまいりましょう。

 よーい、スッタート!


「ふっへっ


 あんた、仕事はどうしたのよ?


 ふっへっ


 休み?ふーん。それで私の知らない女連れ込んで、私のベッドの上でヨロシクやってたってわけね。


 ふっはっ


 あー、ダメダメ。お嬢さん。あんたにはまだ話あるから、帰ろうとしないで残ってなさい。

 で、あんた、この落とし前どうつけるのよ」


「・・・・・」


「黙ってないで何とか言いなさいよー!!!どりゃー、このクソ野郎!ファッ〇!ファッ〇!ぶっ▲◇×・・・・


 カーット!カーット!

 これ以上は罵詈雑言が続いて、大変お聞き苦しくなりますので、終わりとさせていただきました。

 この乾いた笑いは、嵐の前の静けさってやつですね。この後、けが人が出ないことを祈りましょう。

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