第3話 こらえた笑い バカ笑い 作り笑い

 なっはっはっはっ

 笑い声の種類って尽きないものですねー。

 なっはっはっはっ


 続いてシーン5のテーマは、『こらえた笑い』です。

 世の中には絶対に笑ってはいけない場所や状況ってありますよね。何かの拍子でツボにはまって、笑ってはいけないと思えば思うほどおかしくなって、自分の感情をコントロールできずに困った事ありませんか?今回はそんな状況に陥ってしまった時の笑い声です。


 老舗大企業の味拳あじけん食品に勤めるエミリーは、商品開発部の若きエース。

 そんな彼女が、初めて社運を賭けた大きなプロジェクトを任され、社長の前でプレゼンすることになった。


 彼女の技量が試される大一番。


 大会議室には社長をはじめ、重役や各部署の部長クラスが鎮座し、場の空気は張りつめていた。

 そんな大勢の前でついに始まったエミリーのプレゼンであったが、席の一番前で真剣な表情でスクリーンを見つめる社長の鼻から、一本の長い『お毛々』が出ていることに気づいてしまった。

 プロジェークターから漏れた光を受けて、七色に異彩を放ちながら浮かび上がる社長の鼻毛。さらにあろうことか、よく見るとその毛先が3本に枝分かれしてしてしまっているではないか。今回はそんな一コマです。

 それでは、はりきってまいりましょう。

 よーい、スッタート!


「お忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。商品開発部のプロジェクトリーダーを務めますエミリーと申します。よろしくお願いいたします。

 これより、わが社が多額の資金を投じて長年取り組んでまいりました、社運をかけた新商品のプレゼンを、、、


 ん?!


 はじ・・・・くーーっ

 プレゼンをっん、んんっ!

 ハァハァハァ

 すみません、ノドの調子が、

 ん”ーーっ。あーあー。

 プレゼンをっん、始めさせって、いっただきますっー。

 ハァハァハァ


 ?!3ッ!!


 ん”ーーっん”ーーっん”ーーっ!


 ちょっと、水を失礼します。

 ゴクゴクゴク

 もう大丈夫です。大丈夫はおかしいか。あいや、なんでもありません。

 失礼しました。続けます。


 開発した渾身の新商品はこちら

『レインボーハナゲッ・・・

 もとい・・・

『レインボーナゲット』です・・・

 こちらの商品は・・・

 お子様から大人までの幅広い層で・・・

 スッーハァー スッーハァー

 ん”ーーっ!ん”ーーっ!ん”ーーっ!

 親しまれることクッ間違いなしのクッ商品でございまクッ。

 まー。まー。まー。


 ちょっと、ひっ、マイクの調子が悪いようですので、はっ、調整室を見てきますね、ほっ。


(すぐ横の調整室に入り、扉を閉める バタン)


 ぎゃーはっはははは。


 社長ー!社長ー!社長ー!

 あんな長い鼻毛、初めて見たわー!

 しかも、3本に枝分かれしたレインボー鼻毛が、空調でそよぐ状況ー!

 無理!無理!無理!


 ぎゃーはっはははは


 死ぬー!腹がもげるー!


 ぎゃーはっはははは


 もー大丈夫。もー大丈夫。

 いっぱい笑ったから、もー大丈夫よ私。

 戻って冷静に再開するわよ私!


(大会議室へ戻る ガチャ)


 あら?みなさんどうされました?なんだか視線が冷たいような、、、

 な”ー!!ピンマイク付けたままで音声筒抜けだったー!!」


 おやおや、『こらえた笑い』に続いて『バカ笑い』も出てきてしまいましたね。

 それにしても、このツボにはまるという事象は本当に厄介ですよね。どなたか対処方法知りませんか?



 続いてシーン6のテーマは、『作り笑い』です。


 朝はちょっと苦手。だって夢の中で見ていた理想の物語が、いつも途中で終わってしまうから。悪夢を見ていて目覚ましで起こされた時はそりゃあ助かったって思うよ?でも、それ以上に私のいい夢を見ている時は大切な時間なのだから。

 思いを寄せる先輩と一緒に愛の宮殿で愛を育む愛物語。それが私の一番好きな夢。


 私の名前はエミリー。高校2年生。今は通学の為にバスに乗ったところ。

 いつもの運転手さんと、いつもの乗客。イヤホンから流れるいつもの音楽を聴きながら、いつもの席に座る。そして走り始めたバスの揺れに合わせて、いつものレベルまで音量を上げる。

 2分ちょっと走ったところで来るバスのエンジンブレーキに合わせて身構え、その後、胸がソワソワする。


 いや、嘘。

 胸のソワソワの方が先。


 下り坂にあるバス停に止まると、そこから乗車するいつもの人をいつも目で追う。

 そこで乗ってきたいつものこの人こそが、ソワソワの原因。学校一のイケメンで私が思いを寄せる先輩。

 話しをしたことなんて一度もないけれど、私は眺めているだけで幸せ。

 私が告白して付き合い始めたとしても、先輩はもうすぐ卒業するから、別れが待っているだけ。だから、行動には移さない。


 眺める専門の『眺専ながせん』で十分。


 先輩がバスのステップに足を乗せたその姿を見て、まずはその存在に感謝する。今日も私の視界に入ってくれてありがとう。今日も一日頑張れますと。

 それから座席に座るまでのお姿を目に焼き付け、そのあとは私のやりたい放題にさせてもらう。顔の表情や寝ぐせの位置から、今の心情を推測して、会話をするのだ。


「もー、またゲームで寝不足?明日テストだよ?テスト終わったら遊園地行こって話してたのに、追試になったら行けないじゃん」


「心配するなって大丈夫だから。仮に行けなくなったとしても、近くの公園でいいじゃん。俺はエミリーと一緒ならどこでも楽しいからさ」


「先輩のバカ!大好き!」


 いつにもましてかっこいいわ。私の中の先輩。こうやって充電しておけば、また夢の中で会えるはず。

 と、いうのがいつものパターン。

 だ、だが今日は違う。先輩はいつもの席には座らず、こちらへ来る。どういうこと?


「ここ、空いてる?」


 へ?いつもと違う?!隣に座ろうとしている?!

 ど、どういうこと?こんなに席がたくさん空いているのに、私の横に座ろうとするなんて。ここは、『イヤホンの片耳を外しながら動揺していないそぶりを見せて、寝てて気づかなかったけどお客さん一杯なのね。気づかずにすみませんでした、お隣ドウゾ』作戦でいこう。


「あっ、どうぞ」


 なぜ?どうして?先輩の肩が私の肩に当たってる。すまし顔を装って音楽を聴いているけど、私のバクバクした心臓の鼓動が先輩まで届いてないか心配だわ。

 わかった!これは夢ね。間違いない。今ここで自分の頬をつねってもいいけど、こんなリアルな夢を終わらせるのはもったいないから、もうしばらく見ておきましょう。

 その時だった、バスが大きく左へ旋回すると、遠心力で私の体が右へ大きく振られ、窓ガラスに軽く頭をぶつけてしまった。


 あ痛っ!


 夢じゃない?!痛みを感じるわ。自分で頬をつねっても手加減しちゃってわからないけど、それよりもリアルな痛み。つまり、これは現実!

 じゃあ、なおさらなぜ先輩は私の隣に?ちょうど今聞いてる曲の頭から先輩が横に来たから、歌い始めた今まで30秒も経っているのに何も話さない。

 ん?30秒って長いのか?いや短い。でも長く感じる。


「俺好きなんだよね」


 え!?


「そんな、急に言われても私、あの、」


「そのスマホに張ってるステッカー。『シャムズX』でしょ?その音楽オレも好きなんだよね」


 そ、そうよね、音楽よね。私なわけ無いわよね。

 だから、なんで横に?そんなことを言いに来たわけ?

 もー!私はどうしたらいいのよー!!


 それでは、はりきってまいりましょう。

 よーい、スッタート!


「あは、あは、あはははは


 え?ライブのチケットが余ってる?

 一緒にどうかって?」


 はい、カーット!

 始まりましたね。うん、始まった。片思いで十分だと思っていた夢見る少女に訪れた奇跡。いつもの日常と違うことに、はじめはストレスを感じるが、それが次第に刺激へと変わっていくんですね。微笑ましいかぎりです。


 うふふっ。

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