最終話 キスの味はアイスの味がした。
愛理の説明によると、愛理の意識は、一度外に飛び出した後から、ずっと体の中にあったという。あの水辺の一件以降も、しっかりと見ていたというか、聞いていたというかと、彼女はしどろもどろに説明した。
そうだったのか……俺は愛理に対して、視線が送れない。必死だった行動故に、深くは考えていなかったが、よくよく振り返ってみれば俺は、なんという行動を……と考えてしまって、腕で口元を抑えてしまう。そうしないと変な声が出そうだった。
愛理も瞼をぱちぱちと瞬かせ、挙動不審とまではいかないが周囲を見渡す。幸いなことに誰もいなかった……ただ、そよそよと風が吹いている。彼女は深く呼吸をすると、ちょっとぶっきらぼうに言った。
「本当なの? 私が好きって……」
強気ないつもの口調でありながら、語尾が少し不安そうに揺れていた。ハッとする……ああ、冷静にならなきゃいけない……今、一番不安なのは彼女なのだ。
俺に迷いはなかった。一度言ってしまったのだ。何度だって、彼女に伝わるまで言ってやる。
「うん、愛理のことが好きだよ、本当に大好きだよ」
愛理はその言葉に脊髄反射のように返した。
「あ、あんたねぇ……! 私がどんな人間か、いやわかっていってるんだろうけど、でも、ほんとに私って、あんまり可愛くない……金魚のあの子みたいに無邪気に甘えられないし、すぐにきつくなっちゃうし……何より、自信がないし……めんどくさい女だよっ、それでもいいの……!」
あのさ、俺たち、もうどれだけの月日を、過ごしてきたと思うんだ。俺は少し微笑んだ。
「だとしても、愛理が好きだよ、愛理の嫌いな部分だって、大好きだ!」
木々がざわつくほどに風が吹いた。夏の風はだるくなるほどに蒸し暑さがあるのに、それでも風そのものの涼しさが気持ちよかった。
俺は改めて、愛理を見る。愛理は目元をうるませて笑っていた。
か細い、でも精一杯の感情を込めた声で言った。
「バカ、そんなこと言われたら……なんかもうハードル超えちゃうじゃん。私だって、あんたのこと、好きだよ……! ずっと昔から……!」
子供の頃垣間見せた素直さのある口調。
彼女はぎゅっと俺を抱きしめた。愛理の温もりは優しくて、なんだか俺まで泣きそうだ。
「ずっと、一緒にいて……」
うん、今までも、これからも……ずっと一緒にいよう。
俺と愛理は見つめ合って笑い合う……やがて、お互い照れながらも、キスをした。もうとっくに、唇に残ってないはずなのに、アイスの味がした。
俺の好きな幼なじみが、自分は金魚で、いちゃいちゃしたいといいだして、どうしたらいいのかわからない つづり @hujiiroame
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