第3話 俺の好きな幼なじみ(?)とのデートで、捕獲とかいいだしてはいけない
愛理は誤解の多い子だった。クラスメイトが俺のところに、こっそりやってきて、怖い子なの? と聞くこともあった。その度に俺は、クラスメイトに言っていた。
いい子だよ。
そう話してから、心のなかでこっそり呟いていた。
真面目だし、言い訳もしないし、しっかりしている。何より、俺の心を離さない、素敵な子だ、と。
だから、彼女が悲しそうな顔が一番嫌だった。
今日のデート前の日であり、言葉の行き違いがあって、関係がこじれてしまった日。彼女は真っ赤な夕焼けを背にして、悲しそうな顔をしていた。
「どうして、こんな風なんだろう……」
自分に対してだろうか、呆れたように笑っていた。
「もっと、自分に素直だったら、こんなことにならないんだろうね」
俺は不器用な愛理でも構わなかった。俺たちの付き合いは、そんなことでどうこうするほど、深くないわけじゃなかっただろうと思うから。だけど、悲しそうな愛理にかける言葉を、俺はとうとう見つけられなかった。
本当に大事だから、安易に言葉をかけて、それで傷ついたらと思ってしまった。
そして翌日、朝から愛理に呼び出され、公園にやってきたら、彼女は金魚だと名乗りだした。
そういうロールプレイ的なナニカと思っていたけれど……俺の中で、もしかしてそうじゃないのかもしれないという、疑念が広がっていた。
「どうしたのー? ぼぉとしちゃって」
彼女は不思議そうにこちらを見ている。大きな瞳で見てくるので、ドキッとしてしまう。なんでもないよと我ながら力のない声で返してしまった。刺激の多い一日に、疲弊しているのだろうか……いや、今起きていることをちゃんと把握するまで、へこたれるわけにいかないのだが。
彼女は俺の言葉を素直に受け取ったらしく、腕を軽くひっぱって。
「デートの続きしよ、君も起きたし!」
楽しそうに笑った。
それはあどけないといってもいいほど小さかった頃の、愛理の笑い顔のようだったし、かわいい別物の笑顔にも見えた。
仮に金魚というナニかが、愛理の中にいるとして、金魚は本当にかわいい子なのだろう。愛されて、甘やかされて、無邪気に育ったのかなと思った。
そして金魚はいちゃいちゃしたいと言い出している。
こんな状況下で、やれることは少ない気がしてきた。下手なことも出来ないとも。なら俺はやれることを、するだけだ……!
よし、俺はデートをしよう。眼の前の彼女と。
はじめて前のめりになれた。現状をどうにか突破しよう。
俺は彼女に聞いた、デートってナニをしたいのって?
俺の声に、やる気が感じられたのだろう。金魚は嬉しそうに背筋を伸ばして、はわーと声を上げた。
「えっとね、えっとね、えー、いっぱいありすぎてどうしよー!」
まるでおいしそうなごちそうを前にして、どれを食べればいいのかわからないって、顔している。
そ、そんなにあるの……俺の心臓がビビり倒しているのだが。
「あ、そうだ。今日すごく暑いよね……・夏だから、当たり前なんだけど」
ん、急に何を……と思っていると、彼女はそっと、俺の額に手を当てる。
「さっきまで、君、すっごく火照ってたというか、熱があって……もう、大丈夫かな」
少しヒヤッとする金魚の手のひら。いちゃいちゃに対して猪突猛進な感じはしていたが、優しい性格でもあるのだろう。さっきも倒れた俺を介助してたし。
ただ、もうなんというか、当たり前のように顔が近くて、吐息かかっているけど、この子、照れがないのか……。
俺の理性をごりごり削れていく中で……しみじみ思ってしまった。
いや、もう、可愛いんだよな……。金魚って名乗って入るけど、純粋な良い子だと思う。
愛理の姿だから複雑なだけで……。
金魚は手をひらひらと振り回しながら言った。
「そうだ、少し涼しいところ行こう! 池のそば!! 泳ぎたい」
テンションの高い子供が言ってるようだった。
同時に思わず突っ込んでしまった。
え、泳ぎたいって言いました? 嘘でしょと。
しかし彼女に俺の言葉は届いてないようで、ものすごい勢いで、池に向かった。これはマジで泳ぐつもりだ……!
こんなところで濡れたら、帰りも、俺の理性も、どうするつもりだ。
俺は彼女を捕獲すべく、走り出した。
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