「」
終章
「(死出島――――
"ザアアアアアアァァァァァ....
「鮎人・・・」
「宏美さん・・・」
"ザアアアアアアァァァァ―――――
風の音が消え、辺り一面に暗い夜の闇が広がる中、
鮎人達一行を乗せたオーシャニア・クルーズは
かつて凄惨な事件が起きたあの島、
"死出島"へと降り立つ....
「・・・・」
「(――――――....
"サアアアアアアアアァァァァァ――――....
再び、風の音が戻り、鮎人が
波止場の波打ち際にいる宏美に目を向けると、
宏美の髪が風に揺れ、夜の闇に溶け込む様に
静かに靡く
「宏美さん――――....」
「・・・・」
"ザッ"
「・・・・!」
「・・・・」
"ザッ ザッ ザッ ザッ―――――
「あ、....」
「・・・・」
宏美は、鮎人の言葉に何も答えず
遠目に見えるオーシャニア・クルーズ、
そして鮎人の連絡でこの死出島へとやって来た
海上自衛隊の巡視船を遠目に見ながら
波打ち際をどこかへと向かって歩いて行く....
「ひ、宏美さん」
「・・・・何?」
鮎人の言葉に、宏美が振り向く
「・・・・!」
「・・・・」
宏美、がこちらに向かって振り返るが
鮎人には、八年と言う長い月日の間
ただ、思い続けていた宏美が目の前に現れた事に
何も言葉が出ない
「あ、あれから―――― 、!?」
"ザシャッ ザシャッ"
「鮎人ォォオオオオッ!
"鮎"人ォオオオオオオオッ!?」
「おい! 大人しくしろ!?」
"ガタッ ガタタッ!"
「弘也――――...」
「許さねえっ! 許さっ! ねェッ!?
ゾォォォオオオオオオオ――――!?」
「この野郎っ!」
「ぐ、ぐハッ!」
"ドサッ!"
「どうやら、弘也、そして、景子さん――――
それに、洋子、そして国東くん――――」
「・・・・」
宏美が、遠目で海上自衛隊の職員に連れられて行く
弘也を見ながら憐れんだ表情を見せる
「あいつら――――」
"サアアアアアアアァァァァ....
「あの人たちは、可哀想な事に、
"八年前"の事件の事が忘れられず、
この島で暮らしていた私の所へと
やって来た....」
「・・・・!」
「鮎....っ 鮎....とぉぉおおオオオオ」
"ガシャッ ガシャッ ガシャッ ガシャッ!"
「そして、この島で暮らしていた私に、
鮎人――――」
「・・・・」
弘也の方に目をやっていた宏美が、
鮎人の顔を覗き込む様に見る
「今幸せで、平穏な暮らしを送っている
アナタに対する憎しみを消す事ができずに、
あの四人は、私に、今回の
あの船での事件を手伝う事を
言ってきた・・・」
「そんな事・・・!」
「――――馬鹿げた話じゃない」
"トンッ"
「・・・・」
宏美は一段高くなっている
波止場のコンクリートの上の段差に足を掛け
その上に立つと、
自分の真下に広がっている
夜の暗い海へと目を向ける....
「あの事件の後、私も彼らと同じ様に
自分の居場所を無くし、
学内の教師や、親族の勧めもあって
私はこの島で暮らす様になった・・・」
「・・・一人でか?」
「・・・・」
"サアアアアアアアアァァァァァ――――"
「(・・・・!)」
八年と言う長い月日、そして、
死出島での事件が宏美を変えてしまったのか
鮎人は戸惑いながら
何も口から言葉を出さない宏美を
ただ、見ている
「――――ねえ、」
「・・・・何ですか」
「・・・クスッ」
「・・・・?」
鮎人が、宏美の言葉に返事すると、
宏美は何を思ったのか薄く笑う
「・・・言葉遣いが、昔に戻ってる」
「い、いや...」
「あっ! ちょっと~!」
"ガシャッ!"
「アンタ達――――っ!
何やってんのっ!?」
"カンッ カンッ カンッ カンッ!"
「澪・・・!」
「ちょっと~っ!」
「・・・・」
鮎人、そして宏美が互いに見つめ合っていると
港に停められたオーシャニア・クルーズの
タラップを伝い、事務所の新人アイドル
"吉川 澪"
が二人の元まで駆け寄って来る
「あ、鮎人さんっ...!」
「何だ? ...澪?」
澪、は宏美、そして鮎人の間に立つと
目の前にいる宏美を睨みつけながら
鮎人に向かって口を開く
「・・・とりあえず、
私達この島に着いたけど...っ」
「・・・・」
澪、は不安そうな顔つきで鮎人を見上げる
「・・・事務所でこんな事件が起きちゃって
これから、私達の――...
この事務所、どうなっちゃうのかな・・・」
「・・・・」
「この感じだと、もしかしたら事務所...
....無くなっちゃうんじゃない?」
「(・・・...)」
確かに、澪の言う通り今回の事件。
事務所のスタッフ達の
何人かが事件の被害者となり、
その影響の事を考えれば
今後この事務所がどうなるかは
鮎人にも分からない
「それに――――」
「・・・」
澪、が今降りて来たばかりの
オーシャニア・クルーズに目を向ける
「私達、ここからどうやって帰るの?」
「・・・・」
「船の運転をしてたの、イとか、
その事務所の人たちだったよね?」
「そ、そう言えばそうだったな」
「だったら、この島に警察が来るまで
しばらくの間、私達この島に居続けなきゃ
いけないって事だよね?」
「....そうなるな」
どうやら今犯人の引き渡し作業をしている
海上自衛隊の職員達は、犯人の引き渡しで
この島まで来た様だが、その職員達は
宏美の話を聞いて、そのままこの島から
本土まで帰って行く様だ
「別に帰る必要なんて無いじゃない」
「え―――...」
澪、そして鮎人が話して込んでいると
波打ち際に立っていた宏美が呟く
「さっきも言ったように、
私は、この島で暮らしてた―――」
「あ、ああ....」
「それだったら、しばらくの間、
アナタ達は私と一緒に
この島で暮らせばいいんじゃない――――」
「・・・・」
"ザアアアアアアアァァァァァ.....
「・・・・っ」
「どう、鮎人―――――?」
「この島で暮らす....」
「....戻りたい―――、?
鮎人――――?」
「(死出島―――....)」
ふと、今までの暗鬱とした雰囲気から
変わった様な宏美の言葉を聞かされて
鮎人は、目の前の宏美を見る
「(宏美さん....)」
「・・・鮎人、どう....?」
「この島――――
「ちょっと~....
何話してんの」
「・・・・!」
宏美、そして鮎人を見ていた
澪は、二人の言葉を遮ると
目の前に立っている宏美をジロジロと上から下まで
眺める様に睨みつける
「ふ~ん....」
「――――どうしたの」
「何だ、"ブス"じゃない」
「み、澪??」
「――――???」
澪の一言を聞いて、宏美の顔つきが
普段の宏美からは見た事も無い様な表情に変わる
"キッ!"
「何か~....」
「―――何...?」
澪、が目の前にいる宏美に
おどけたような顔つきを見せる
「何か、アンタ、鮎人さんと
昔色々あったのかも知れないけど~」
「・・・だから、何?」
"ガッ!"
「お、おい!」
「・・・・!」
澪は、宏美の顔を見ながら、
鮎人の腕に手を回す
「アンタが、昔に鮎人さんと何か
あったのか知らないけど~」
「お、おい、澪...!」
「―――――!」
「い、いや・・・!」
宏美が、腕に手を絡ませている二人を見て
白い目で鮎人を見るが、澪は構わず
鮎人に腕を回したまま宏美を睨みつける
「アンタが昔鮎人さんと
何かあったのかは知らないけど、
今は、鮎人さんは
"私"、
のマネージャーなワケ?
・・・分かる? オバサン?」
「・・・何を言ってるの」
「あんた今さら出戻りで鮎人さんに
色目を使ってるみたいだけど、
鮎人さんは、"私"の物なの。
分かりますか? "オバ"さん?」
「アナタ・・・!」
「・・・何!?」
「お、おいっ」
「―――ババアっ!」
「....ガキっ!」
「お、ちょっと――――!」
"ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ―――――
「!」
「所詮、私は、一介の漂泊の雌奴隷の
一人にしか過ぎませんから・・・」
「何だよっ!」
「・・・こいつっ!」
「え、咲茉!」
険悪な雰囲気になっている
宏美と澪を鮎人が宥めようとしていると
船から降りて来たのか、咲茉が
自分達の横を素通りして行く
「・・・このババアッ!」
「クソガキッ!」
「雌奴隷には、雌奴隷に与えられた
区分でしか、行動する権限は
与えられていないのです―――」
「・・・おっ、ちょ、ふ、二人とも!
―――咲茉、ちょっと手伝ってくれ!」
「何よ!」
「ババアッ!」
「残念ながら、雌奴隷と言う
卑しい身分に区分けされた区分内の私には、
二人を止める術、そして手立ては
完全に区分外でしか有り得無いのです」
「・・・・!」
"ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ――――
「お、おい――――!」
「・・・・」
咲茉、は、一言そう言い残すと
そのまま波止場からどこか
暗がりの方へ消えて行く・・・・
「(・・・・!)」
「お、落ち着けよ」
「うるさいッ!」
「退いてッ!」
「――――!」
"ドンッ!"
「ガキッ!」
「ババアッ!」
「――――――」
「夜の闇の中に、哀れな三人の雌奴隷が
滑稽にも雄という哀れな餌をぶら下げられ、
悲しくも狂奏の踊りと黄昏に
その吊り下げられた糸に抗うように
踊り狂う―――――....」
「コイツッ!」
「い、いタタタッ!」
「この滑稽な現世の道化芝居も、
これにて閉幕で御座います....」
「咲茉・・・!」
「皆様、どうぞ長いお付き合い、
ご歓談の程、まことに、
感謝、ご容赦を―――――」
「・・・・な、何を言ってるんだ」
「それでは、これにてこの道化芝居も
無事、閉幕で御座います―――」
「・・・・!」
死出島密室島連続殺人事件;弐~八年の月日~fin
「死出島密室島連続殺人事件;弐~八年の月日」 ろわぬ @sevennovels1983
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