第五十一話 「昔送(せきそう)」
【すっご~い! アンタ、じゃあ、
芸能事務所で働いてんの!?】
【ああ、そうだ】
"シャアアアアアアアアアアア―――....
「へー じゃあ、アンタ、
結構金持ってんでしょ?」
「・・・・」
"ザアアアアアアアアァァァァ...."
「そんな事も無い....」
"キュッ キュッ"
「へー....」
"事"が終わった後に、浴槽の汚れを
シャワーで洗い流していた景子が
上半身裸で腰にタオルだけを巻いた状態で
椅子に座った一人の男を見ると、
その男は、自分の事をどうやら気に入っているのか
聞きもしない事をべらべらと話し出す....
「けっこう、今インターネットとかでも
話題になってるんだぞ?」
「へー....
何て名前の事務所なの?」
「・・・知りたいか?」
「・・・・」
"キュッ"
「・・・・」
何も身に着けず情事の後の姿のまま、景子は
浴槽を拭いていたスポンジの手を止める
「別に、知りたいってワケじゃないけど....」
「何だ、ホントは、気になるんだろ?」
「(・・・・)」
何がどうなって、今自分が
裸の男を相手にしているかは分からないが
この様な境遇になる前までの以前の自分は、
学生時代にはアイドルや女優を目指している
都内でも有数の名門校の
演劇部に通っていた筈だった...
「(・・・・)」
"キュッ"
「....別に、関係ない」
「何だよ、知りたくないのか?」
「別に、私芸能界とか興味無いし。」
「ホント~?」
「・・・・」
"キュッ キュッ"
「(あの時から....)」
"キュッ"
死出島での事件後、元々素行が
あまり良くなかった景子は
そのまま家を飛び出し、
何人か男を頼ったりはしたが
生来男にだらしない性格のせいか
男を替わる替わる変え、
派手な生活を送ってはいたが、
以前起きた事件の影響を忘れる様に
派手にブランド品や車を買いあさり
次第に借金がかさむ様になっていた...
【景子ちゃ~ん 借金なんて
いくらあっても平気だって!】
【・・・ホント?】
【あったり前でしょ~?? ウチの店で働けば、
借金なんてオールチャラ。
――――全部ストレスフリーだよっ】
【・・・・!】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「(あんな事が無ければ....!)」
「オイ、どうしたんだ?」
「・・・・」
「――――何だ? 急にジっと見て?」
「(コイツ....)」
今、目の前にいる、客であるこの"男"。
「やっぱ、知りたいんだろ?」
「(・・・・)」
やたらと軽い男で、この所自分を商売女として
頻繁に呼び出し、"相手"をさせているが
確かに金払いはいい。
「そんな事言って、他の女騙してんでしょ?」
「関係ないだろ? ただの世間話じゃないか?」
「・・・・」
もし、自分があの時、"あの事件"に遭わなければ、
今頃自分はこの男の様な何の考えも無く
華やかな世界の中で生活を送り、
充実した生活を送ってたかもしれない....
「お前、けっこう顔はいいんだけどな~」
「止してよ」
「ホント、ホント、ウチの事務所とか入ったら
けっこう人気になるんじゃないか?
・・・あんなの所詮適当に宣伝さえしてりゃ、
顔なんか関係ないからな!」
「・・・・!」
今でさえ、この様な職業に体を預けているが
学生時代、自分はどんな男にも持て囃され
ある程度女としての自信はあるつもりだ。
「今、ちょうど事務所のアイドルを管理してる奴と
友達でな」
「へー....」
「ソイツに頼めば、お前、新人アイドルとして
事務所に入れるんじゃないか?」
「アイドル・・・!」
「イケる、イケる、こんな下らない
風俗なんてやってないで俺の事務所に来いよ!」
「・・・・ッ」
"スッ"
「・・・な?」
「・・・・」
男が、自分の服を着けていない
横腹辺りを軽くさすってくる
「・・・アンタの事務所、何て名前なの?」
「ああ、"RS事務所"だ。」
「RS事務所・・・」
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