第五十話 「屈辱」

【景子ちゃんも、いい加減


こんな店で働いて無いで


そろそろ落ち着いたらどうかな~】


【そう言う事は、"店"で口に出しちゃいけない


決まりだけど....】


"パシャッ パシャシャッ"


【そんな事言って、"体"は正直でしょ...?】


"スッ"


【.....!】


景子は、浴槽の隣で自分の内股に


無造作に手を伸ばして来た男の手つきに


一瞬体を強張らせるが、


浴槽の隣のテーブルの上に置かれた


札束がはみ出す程詰まった財布を見て、


自分の体の動きを止め、男の手を受け入れる...


【ほら~ やっぱり...


 口ではそんな事言ってるけど、


体の方は、もう、"OK"みたいだよ....?】


【....ッ!】


"カターーーーーーーンッ.....


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あれから、八年―――っ...


学生時代とは見分けが付かない程


顔つきが険しくなった景子が


鮎人に対して憎悪の表情を見せながら、


ステージの側まで歩み寄って来る


「高校で人殺し扱いを受けた


 私達演劇部のみんなは、


その後学校を退学になって


それぞれ、悲惨な人生を歩んで来た...」


「なあ、分かるか.... 鮎人...?」


「弘也....っ!」


"スッ!"


「・・・・!」


「これ、見てくれよ....」


「それっ....」


景子の隣に立った、学生時代は


自分の親友とも呼べる存在だった弘也が、


垂らしていた自分の髪を上に上げると


髪に隠れていた左目が露わになり


鮎人はそれを見てギョっとする


「学校をクビになって、


...事件自体は過失があまり無い様だから、


俺達は刑務所には入れられず、


そのまま、社会に放り出された....!」


「・・・・」


"グッ!"


「・・・・!」


弘也が、まるで黒目の無い、白一色の


髪に隠れていた目で鮎人を睨みつける


「あれから、ロクな働き場所も無く、


親に家を出る様に言われた17の俺は


作業現場で働く様になったが、そこで


昔の事を掘り返されて、カッとなって


 今じゃこのザマだ....っ!」


"ガタッ...!


「弘也....!」


片目しか無いせいか、弘也が軽くバランスを崩すと


それを横で見ていた先程まで


小澤副代表の格好をしていた洋子が弘也を支える


「鮎人....っ、アンタ....っ!」


「・・・何ですか」


「アンタ....っ アンタ....っ!」


「・・・・!」


滄城学園に在籍していた当時は、


演劇部の副部長として男子生徒の間でも


その容姿と性格でかなり持て囃されていた


洋子だったが―――


「あんただけ、そんな....っ!」


"バサッ!"


「(・・・・・)」


今目の前にいる洋子を見ると


以前の学生時代に見せていた容姿端麗の面影は無く


まるでくたびれた場末の立ちんぼの様に


その場に立ち尽くしている


「鮎人....っ」


「・・・・!」


洋子の言葉に、鮎人は一歩足を後ずらさせる


「―――つまり、お前らは、あの死出島の事件で


お前らを警察に突き出した俺を狙って


今回の事件を起こしたって事か・・・!」


「・・・・!」

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