第四十九話 「八年の月日」

「きょ、虚像....!


 何を言ってるんだ!?」


「・・・・」


ステージの下、劇場内の中央付近で


自分の周りを囲んでいる全く目にしたことも無い


数名の男女達から後ずさりながら、


孫はステージ上の鮎人を見上げる


「・・・要は、簡単な事です」


「か、簡単....?」


「・・・・・」


"コッ コッ コッ コッ――――"


「今まで、イが俺達に見せていた映像。


その映像は、実際のVR映像でも何でもなく、


ただの偽り、


 "嘘"の映像だったって事ですよ....」


「う、嘘....っ」


"ズサッ ズサササッ"


「鮎人―――...」


「国東....」


"ズサッ"


「この暗がりの中で停電を利用して


事務所の人間達と入れ替わり、


そしてお前をこの事件の


 犯人に仕立て上げる....」


「・・・・」


気取っているのか、相変わらず


芝居染みた口調で話す国東を見て、鮎人は


懐かしさと同時に強い敵意の様な感情を抱く


「――――なァ、"景子"?」


「鮎人・・・・!」


「景子....!」


村上の格好をした景子がステージのすぐ下、


明かりで照らされ顔が見える程の


距離まで近付いて来る


「あれから....っ」


「―――あれから?」


「・・・・」


先程まで暗がりでよく見えなかったせいか、


景子の顔がよく分からなかったが、


今、こうして八年振りに学生時代目にしていた


景子の顔を見ると、かなり顔つきが険しくなり、


その顔からは水々しさの様な物が失われ


どこか疲れ切った様な表情をしている様に見える


「あの事件の後....!」


「・・・・」

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