第三十九話 「動機」

【分かるだろ、澪―――....


この映像を見れば、犯人はアイツ、


"鮎人"しかいない...】


「(と、解けた!)」


【う、嘘――――....!】


"ガタッ!"


「(―――――!)」


横になったまま鮎人がもがき続けていると


適当に縄を雁字(がんじ)搦めに


縛っていたせいか、


自分の体を締め付けていた縄が


徐々に緩くなって行くのを感じ、


「・・・・っ!」


そこから更に五分ほど激しく体をゆすっていると


腕を締め付けていた縄がはらりと


自分の腕から剥がれ鮎人は


横に倒れたまま椅子の上から


立ち上がる――――


「っ、くっ――――....!」


"ガタッ!"


「(いや――――)」


立ち上がると、鮎人はそのまま


ふらふらとした足取りでカードルームの入り口、


隣のシアターホールに繋がっている


扉に手を伸ばし掛けるが、伸ばし掛けた手が


扉の目の前で止まる


「(こ、ここで俺が外に出たって


  どうなるんだ?)」


【とりあえずアイツはそこのカードルームに


しばらく閉じ込めておいて、


船が陸に着いたらあいつを


 警察に引き渡しましょう】


【それがいいだろうな...】


「(イ、それに、孫さん....)」


縄が解けた事に一瞬鮎人は浮き足立ちながら


扉に手を伸ばし掛けるが


「(ここで俺がみんなの前に出て行くと...)」


おそらく、この扉を開け今自分を


犯人扱いしている全員の所に戻った所で、


再びまた先程と同様に犯人扱いされ


ここに閉じ込められるか


かなり危険な目に遭うだけだろう


「・・・・」


"ギッ ギギッ...."


「(まあ、当然か・・・・)」


取り合えず、何となく扉が開くか開かないか、


扉の向こう側にいるシアターホールの人間に


気取られない様にゆっくりと


扉を押そうと試みる、が


「(捕まえた犯人をそのままにして置くって事は


  ないか...)」


どうやら、扉自体に外側から


鍵が掛けられているのか


鮎人は扉に掛けていた手をそっと元に戻す


【四人も殺すなんて....


あ、あいつは何でみんなを殺したんだ?】


【分かりませんね....


"出世"とかが目的なんじゃ


 ないですか....?】


【出世・・・・】


「(―――――


"ドサッ"


鮎人は、外から聞こえて来る


イと孫のやり取りを聞くと、


急に体の力が抜けたのか


立っている扉に背中を預け


そのままカードルームの地面に


へたり込む様に膝を崩す....


「("犯人"――――...)」

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