第三十三話 「裏切り」

「どう言うつもりだ....っ


イ....っ!?」


「"どう"―――――...?」


「(・・・・)」


先程まで自分と共に行動し、


この事件を追っていた筈のイ。


「"どう"も何も、鮎人―――...」


「・・・何だ」


そのイが、何故か


突然風に揺られた一片(ひとひら)の


薄葉の様に態度を翻(ひるがえ)し、


今は仲間だった筈の自分を犯人だと


言って来ている――――


"スッ"


「彼は、あなたに


 罪を着せようとしている―――...」


「??」


「・・・・」


ゴーグルをしているせいかよく分からないが、


鮎人が周りの事務所のスタッフ達が立っている


暗がりに目を向けると、どうやら、今


何か言葉を発したのは咲茉の様だ―――――


「単純な話だ――――」


「――――"!"」


咄嗟にステージ上のイを鮎人が見上げる


「お前の話だと、咲茉、そして


 小澤副社長の部屋の中に現場に残されていた


証拠品があったから、お前は


 この二人を犯人だと言ったが、


 実際の所、それはあくまでも可能性の高い


 推測の範囲で


"事実"じゃない―――――」


「(・・・・)」


確かに、イの言う通り、鮎人は現場に残されていた


証拠品と、咲茉そして小澤の部屋に置かれていた


証拠品が一致する事で二人が犯人だと思っていたが、


その事についてはこの犯人探しをする前に


イも同意していた筈だ――――


【・・・犯人は、"あの二人"って事か――――】


【ああ・・・】


「(何なんだ、こいつは....)」


まるで以前自分の言葉に反応していた事は


自分を犯人に仕立て上げるためと


言わんばかりの今のイ――――....


「だが、二人には、"アリバイ"がある――――」


イは、呆然とした様子の鮎人を横目に見ながら


言葉を続ける――――


「アリバイ・・・・」


「そ、そうだ....」


「孫さん....」


"ザッ"


暗がりの中から、事務所の代表、


孫 誠一が鮎人の側まで歩み寄って来る


「確かに、四人が死んだ場所に残ってた


カツラや凶器は、咲茉、そして恵理の


 部屋にあったかもしれない...」


「・・・・」


鮎人が呆然と自分の側に立っている


孫を見上げる


「だが、そうは言っても結局の所、


四人が殺された時には


私達事務所のスタッフ全員は


常に固まって行動していた―――」


「だ、だからそれは縄を使った


 トリックか何かで―――」


「・・・トリックがどうこうって話じゃない」


「・・・!」


自分が見破った、密室破りのロープを使った


トリックの事について孫がまるで


子供を見る様な目つきで


否定的な表情を浮かべている事に


鮎人は更に目を大きく見開く


「・・・全員が固まって行動してる以上、


"密室"、がどうだとか、


 "トリック"がどうだとか


そんな事は何の関係も無い、


 意味の無い話じゃ無いか....?」


「・・・・!」

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