第三十一話 「虚白」

「でも、ちょっと待ってくれ....」


「イ―――??」


「・・・・」


鮎人が自分が集めた証拠品を


ホール内の全員に突き付け、


今回の事件の犯人が、事務所の


新人アイドルである咲茉、そして


そのマネージャで事務所の副代表である


小澤である事を告げると、部屋の中が


水を打った様に静まり返るが、


あまり長くは無い沈黙が続いた後


ステージの側の椅子にパソコンを抱えながら


座っていたイが、突然ステージに近付き


鮎人の側までやってくる


「なんだ? イ――― ??」


「いや....」


"カッ カッ カッ カッ――――"


イは、パソコンを抱えながら


ステージの上まで来ると鮎人の側まで歩み寄り


そこからステージの下にいる


全員を見下ろす―――


「な、何だ?」


「・・・・いや...」


自分の側まで近づいてきたイを見て、


鮎人が不審な表情を浮かべる


「いや、お前の話だと今回の事件....」


「・・・・!」


「な、何ですかっ....!」


イが、咲茉と小澤を見下ろす


「・・・鮎人、オマエ今回の事件の犯人は


 小澤副社長、そしてあそこにいる、


 咲茉だと言ってたが


 それ、おかしくないか――――?」


「??」


"何だこいつ"


「(・・・・)」


「・・・お前の話だと、今回の事件の証拠品である


"カツラ"、そして"パソコン"が


 二人の部屋の中にあったから、お前はこの二人が


 犯人だと言ってるみたいだが....」


「・・・・??」


「(何を言ってるんだ―――...)」


「いや、でも、そうだとしても


 現場にあった証拠品が


二人の部屋にあるからって


この二人が犯人だと決めつけるのは少し


早過ぎるんじゃないか....?」


「??」


イの言葉を聞いて、鮎人は再び


今自分に対して喋りかけて来ている


そのイの顔を見る


「(・・・このホールで推理する前、


イは俺と一緒に事件現場を検証してて


犯人はこの二人だって


  一緒に言ってたよな―――??)」


「??」


先程まで自分の意見に同調していた筈のイが


口から出した言葉に、一瞬


鮎人の意識が空白になる


「しかも―――....」


イは、そんな鮎人を気にする素振りも見せず


自分の考えをステージの下にいる全員に伝える


「その、お前が言う"証拠品"だって


 所詮、"状況証拠"にしか過ぎない話だし


それに、"アリバイ"の話だって


まだ解決した訳じゃ無いだろ?」


「―――――、??」


【それじゃ、犯人は――――】


【・・・・ああ、あの、


 "二人"に間違いない―――】


「(な、なんで...っ)」


全員をこの部屋に集める前にイとした会話が


鮎人の頭に過るが、イはむしろ


そんな鮎人を見て何故か自信に


満ち溢れた表情をしている


「俺の見た所、小澤副社長....


 そして咲茉....


 この二人は、犯人じゃ無い―――」


「・・・え?」


思わず何も考えず、鮎人がイの言葉に答える


「だってそうだろ? 


―――アリバイから考えれば、


この二人は犯行を起こす事は


 不可能だった筈じゃないか...」


【アイツら大人しいフリをして


こんな事するなんて....っ!】


【すぐに捕まえて、警察に突き出そう!】


【・・・そうだなっ】


「(イ――――...?)」


先程まで、自分と共通の目的を持って


話をしていた筈のイが、


今はまるで見知らぬ他人の様な態度で


接して来ている事に鮎人は戸惑う


「(イ――――...??


"ガタッ!"


「・・・・!」


「小澤さん・・・」


「そう....っ それは、そうじゃない...っ!」


「・・・・!」


鮎人が少しの間呆けていると、ステージの下で


先程まで自分が犯人だと疑われて


言葉を失っていた小澤が、


高圧的な目つきでステージ上の鮎人を見上げる


「私達は、


"犯人"


じゃない―――っ!!」


「え・・・?」


「鮎人・・・」


「・・・・?」


自分に向かって赤の他人の様な


空々しい態度を見せているイに


鮎人は目を大きく見開く


「鮎人....この二人は、犯人じゃ無い。」


「そう...私達は、犯人じゃ無い....っ」


「・・・・!


 い、いや....じゃ、じゃあ、


誰が犯人だって言うんだ・・・?」


"スゥゥウウウ―――


「・・・イ?」


「犯人は―――」


鮎人の言葉に、イは一つ大きく息を吐く


「鮎人。 


 "お前"だ―――」


「・・・・!?」

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