第十八話 「真相」

「とりあえず、話を伊坂さんの


事件の方に戻しましょう――――」


「・・・・」


ステージの下にいる孫に鮎人がそう告げると、


孫も特に何か言う事も無いのか


暗がりの中に並んだ座席を一つ選び、


そこに腰を下ろす


「でも、伊坂の転落死した状況だと、


部屋には鍵が掛かっていて


 誰も入れない状態―――、


 つまり、"密室"だったって事だろ?」


「・・・・」


「しかも、この部屋の中にいる


 全員にアリバイがある...


 それじゃ、誰も伊坂を殺せないだろう?」


「そうです」


撮影クルーの一人、照明係である三浦の一言に


鮎人はそのまま返事をする


「・・・そうですって――――


それじゃ、誰も犯人じゃ無いって


 事になるじゃ無いか」


「・・・それは、違います」


「?」


「イ...」


「・・・・」


"カタッ!"


鮎人の一言を聞いたのか、イはパソコンの


キーボードを人差し指で弾(はじ)く


"ガバッ"


「い、伊坂が――――」


「た、立ち上がった――――」


"カッ カッ カッ カッ カッ――――"


「な、何?」


パソコン内の編集ソフトを


イがマウスで操作すると、


ステージ上で血だらけで横たわっていた伊坂が


人形の様に立ち上がり、不自然な形で


体をボールの様に跳ね上がらせる


"バンッ!"


"バンッ!"


「な、何これ――――?」


"ジジッ!"


「これは、伊坂さんが自室のバルコニーから


転落した時...その転落死した時の


状況の、"逆再生"です――――」


"グゥゥウウウウウウウ――――"


「い、伊坂が――――」


「う、浮かび上がった―――――」


"グゥゥウウウウウウウウウ――――"


不自然にボールの様に跳ね回っていた伊坂は、


二、三度地面を強く跳ねると、そのまま


空中へと浮き上がり、ステージ上の天井に


吸い込まれる様にその体を浮かび上がらせて行く


"グゥゥウウウウウウウウウウ...."


「い、伊坂が――――」


「あ、足だけ見えるぞ――――」


「・・・・」


"ピッ"


伊坂は体を十メートル程浮き上がらせると、


ちょうど天井の部分と重なったのか、


上半身は天井に吸い込まれ、下半身は


足だけの状態になっている


「あそこが、伊坂が落ちたバルコニーって事か?」


「・・・そうです」


「・・・・」


鮎人が下半身だけ見えている


伊坂の遺体を見上げながら


スタッフ達の言葉に答える


「・・・自室にいた伊坂さんは、


自分の部屋のバルコニー、あの場所から


下へと転落し――――」


"スウウウウウウウウゥゥゥゥ


「―――ッ!」


"バンッ!"


「っ――――!」


"バンッ!"


"バンッ!"


「い、伊坂――――」


鮎人の言葉に合わせているのか、


イがパソコンを操作すると下半身だけ


天井から突き出していた伊坂の遺体が


垂直に鮎人がいるステージ上まで落ち、


地面を2、3度跳ねると、その動きを止める...


「伊坂さんは、自室のバルコニーから


 "何か"が原因で転落し、


そして、船のデッキに体を打ち付け、


そのまま息絶えた――――」


「・・・・」


「な、何――――」


"グゥウウウウウウウウウウ――――"


「い、伊坂が――――!」


"グォォォォオオオオオオオ――――"


「ま、また上に――――!」


「・・・・」


イが、再びパソコンをマウスで操作すると、


地面に倒れていた伊坂が再び上空へとその体を


上昇させ、再び伊坂の体は天井から


足だけ突き出た状態になる


「―――でも...」


「・・・・"でも"?」


ステージの下にいた三浦が、


驚いた表情を見せながら鮎人の言葉を聞き返すが


鮎人は構わず自分の考えを口にする


「この、伊坂さん―――


俺達は、この伊坂さんが自分で


バルコニーから飛び降りたと思っているが、


実際は、そうじゃないとしたら―――?」


「??」


「そ、そうじゃないって――――」


「もし、伊坂さんが、"自分"の意思では無く、


何か"別の物"によって、このバルコニーから


転落したとしたら―――...」


「べ、別のもの――――?」

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