第十六話 「犯行の状況」

"ジジッ―――――


「まず、犯行現場の状況――――」


「現場の状況って...」


「・・・・・」


劇場の中央付近から、イの座っている


ステージの側の座席まで集まってきた


それぞれ頭にゴーグルを掛けた


事務所のスタッフの中から、


今回の撮影の総指揮を務めるディレクター、


原 明宣(はら あきのぶ)が進み出て来る


「・・・状況も何もないんじゃないか?


伊坂は――――」


"ジジッ―――――"


原は、ステージの下からステージ上に映し出された


伊坂の部屋の真下にある船上の甲板部分、


デッキの上で横たわっている伊坂に目を向ける


「・・・あの時、すでに事件が三つも起きていて


ここにいる全員は、三階の伊坂の下の部屋にある


俺の部屋に集まっていた・・・


伊坂以外はな」


「伊坂くんは、一人だけ


「俺は部屋に戻る!」


って言って、私達のいる


 2Fの部屋から自分の部屋がある、一つ上の3Fの


 自室に戻っていたんでしょう?」


「・・・そうだな...」


隣にいた、同じくゴーグルを掛けている


事務所の副社長、小澤 恵理が


第四の犯行の状況を説明すると


原は、残念そうな表情を浮かべながら


ステージ上の鮎人を見上げる


「そう――――...


そして俺、イ、他に澪の三人が


 伊坂さんの様子を伺いに部屋まで訪れると、


伊坂さんの部屋には鍵が掛かっていて、


孫社長に頼んで部屋を空けてもらうと、


 すでに伊坂さんは、自分の部屋の下から


その真下にあるデッキの甲板の上に


 倒れていた――――」


「・・・・」


「・・・・」


「・・・・」


事件の事を思い返したくないのか、


事件現場を淡々と説明する鮎人の言葉に、


周りの誰もが口を開こうとしない


「俺達三人が、伊坂さんの部屋に集まった時には、


ここにいる全員は一つ下の階の


 原ディレクターの自室である


二等室の中にいた――――」


「・・・そうだな」


ステージの上から、暗い、


ステージ上の立体映像を際立たせるため


明かりを消しているのか、シアターホールの


中央付近にいる事務所のスタッフ達を見下ろすと


たまたま目があったのか撮影クルーの一人である


浅野が鮎人に言葉を返す


「犯行時には鍵が掛かっていた部屋――――」


浅野は鮎人に向かってあまり好意的では無い


表情を浮かべながらステージの下から声を上げる


「伊坂は、犯人が入れない様に自室に


 鍵を掛けていたんだろうが―――」


「・・・浅野さんが死んだと思われる時間、


ここにいる全員はディレクターである原さんの


部屋に集まっていた...」


「そうだな」


「つまり、この場にいる誰もが、アリバイがあり


伊坂さんを殺す事は不可能だった―――」


「・・・・」


「それじゃ、ここにいる事務所のスタッフは


全員犯人じゃ無いって事だろ?」


「・・・・」


浅野が自分に向かって何か、今回の事件の事について


否定する様な言葉を言っているが


鮎人はそれを無視して話を続ける


「・・・密室の中で、浅野さんは


"何か"が原因で、自分の部屋から転落し


部屋の真下の船の甲板部分、


 "デッキの上"に倒れていた...


これは、今見ても分かるでしょう―――」


「・・・あ、ああ。」


"ジジッ!"


誰も出入り出来ない部屋から、


真下のデッキに向かって伊坂は転落死していたが、


もし、伊坂が一人でバルコニーから


飛び降りたとすれば、伊坂は


自殺と言う事になるが、伊坂の以前の言動や


状況から考えると伊坂が自殺したとは考え辛い


「でも、伊坂さんが誰かに殺されたとしても


それを行える人間は


この船内にはいなかった――――


 そうでしょ? 鮎人くん?」


「・・・・」


小澤が高圧的な目つきで鮎人を見上げると


鮎人は、無言でステージの下にいる


小澤を見下ろす――――

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