第九話 「三つ目の事件」

"ガタッ"


「それじゃ、次は第三の殺害現場って事か?」


「ああ・・・・」


"ジィィィィィイイイイイイイイ―――――...."


「(ここは――――...)」


"ピッ ピッ


「(・・・・!)」


「("ロッカールーム"―――...)」


「・・・どう、鮎人さん?」


「ああ――――」


"ジジッ"


「見えたか?」


「ああ・・・ かなりはっきりと見える」


鮎人が、オーシャニア・クルーズの最下部、


広い、端が霞んで見える様な広さの


船内に設置された席がいくつも並んだ


シアターホールの中でイが映し出した


ゴーグルに浮かび上がった


"映像"に目を向ける―――


「(これは――――...)」


「―――どうだっ!? 何か分かるかっ!?


「あ、ああ」


ゴーグルの中に浮かび上がった


"映像"に鮎人が意識を向けると、


その目の前の映像に地下から五層程ある


オーシャニア・クルーズの最上部、


海が見渡せる展望浴場に入るための前室である


女性専用のロッカールームの


鮮明な映像が浮かび上がってくる


「・・・小田切さんはどんな状態だ?」


「(・・・・)」


VR映像に映し出された、


ロッカールームで殺された


小田切 未菜の事をイが尋ねて来るが、


言うまでもなく、鮎人のゴーグルの中に映った


小田切は無残な姿でいくつも並べられた


ロッカールームの中央付近で


テーブルの下に隠れる様に横たわっている...


「・・・・」


"ガタッ"


「っ・・・・」


「おい、そこ、箱が置いてあるぞ」


「・・・いや、除けといて下さいよ」


「ああ、すまんすまん」


「(・・・・)」


目の前に浮かび上がった立体の


ロッカールームの中を、小田切の遺体の元まで


歩いて行こうとすると、今


自分が歩いているシアターホールの端の場所には


何か箱の様な物が置かれていたのか


鮎人は軽くその箱に足をぶつける


「あ、じゃあ、私、除けときます」


「(ここも、やっぱり――――)」


「・・・・」


鮎人の足元にあった段ボール箱を


澪が脇に片付けるが、鮎人はその様子より


今自分の少し先に横たわっている


小田切の方が気になる


「ここは、"女性専用"のロッカールームだよな?」


「そうなるな・・・・」


「(・・・・・)」


"コッ コッ コッ コッ―――....."


「・・・小田切さんが殺されたと思われる時間は、


 深夜一時から四時の間―――」


「ああ、どうやら一人で夜中に


 屋上の大浴場に入りに行った


 みたいだな・・・・」


"コッ コッ コッ コッ コッ――――"


「(・・・・)」


鮎人は、床に横たわっているイが作り出した


小田切の遺体をゴーグル越しに見ながら、


犯行時の状況を正確に"再現"する――――


「(この、第三の事件――――)」


【お、おい小田切はどこだ!?】


【い、いや、小田切さん、朝から


 自分の部屋に鍵を掛けたまま出て来ないから、


 そのまま、私達VRゲームがあるから


 小田切さんは後で来るだろうと思って


 小田切さんの部屋からこっちに


 来たんだけど...】


【・・・まずいな...】


「(―――――....)」


鮎人は、前日の事務所のスタッフ達との


やり取りを思い返しながら、


すでに動かなくなった実際には目の前にはいない


小田切を漏らさず丹念に眺(なが)め続ける


「(・・・実際、小田切さんの


  遺体が発見されたのは他の二人の


  遺体が見つかった後だが、


  犯行の時間的には、小田切さんは


  他の二人より早くこのロッカールームで


  "犯人"に――――....)」


「・・・おい、何か分かるか!?」


「(・・・!)


 小田切さんがこの場所で死んでるって事は、


 犯人はこの展望浴場の


 "女性"専用のロッカールームに


 入ったって事だろう?」


「もちろん、そうだ」


「(・・・・・)」


"コッ コッ コッ コッ――――


「(遺体の状況を見ると、


  あまり、何か激しく争った様な


  跡は無いな....)」


"コッ コッ コッ コッ―――――....


「(・・・・)」


鮎人が、自分の目の前に浮かび上がった


ロッカールームの映像を見ると


少しぼやけて見えるが、


かなりはっきりとした映像が


自分の目の前に広がっている――――


「(・・・・?)」


"ズズ...ズズズ...."


「な、何だ」


「・・・どうしたんだ?」


「お、小田切さんが―――」


「"動いた"か?」


「あ、ああ――――」


"ズズ....


「(・・・・!)」


ゴーグル越しに、ロッカールームの


右隅にある血痕が付いた


ロッカーに目を向けていると、テーブルの下に


横たわっていた筈の小田切が突然、


テーブルの下から何か見えない力によって


引きずられる様に、テーブルの下から這い出し


そのまま糸の切れた人形の様に


顔に血を滴らせながら


ゆっくりと鮎人の目の前で立ち上がる―――


「・・・小田切が死んだ後に撮影した映像、


 それに、ロッカールーム内に付いた血痕や


 傷が付いた様子から、ちょうど殺害があった


 "瞬間"の映像を再現してみたんだが―――」


「さ、再現・・・!」


"ズ...ズズッ...."


「う、動いてるの?」


「あ、ああ・・・・」


"ズズ...."


「(何だ、この動きは――――?)」


突然意思の無い人形の様に立ち上がった


小田切に鮎人が目を向けると、小田切は


顔中に血がベタリとついたままの状態で


何か、よく分からないが、軽く誰かに


押されている様な動きをしている


「・・・どうだ?」


「(・・・・)」

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