第七話 「復元」

"ジジッ ジジジジ―――――


「・・・どうだ?」


「ああ、よく見える――――...」


イが、このオーシャニア・クルーズで


行われる予定だった仮想空間ゲームの映像と、


実際に自分が犯行現場で撮影した映像を繋ぎ合わせ


編集した犯行時刻の殺害現場の映像を


パソコン内で逆再生し、その逆再生した映像を


鮎人の付けているゴーグルに送ると、


鮎人の目の前の空間が高速で歪み始める....


「(遺体――――....)」


鼻につく異臭――――....


「(中井出――――...)」


そして、何か、刃物の様な物で


メッタ刺しにされたのか、


まるで血の臭いが今にも漂ってきそうな


錯覚を感じさせる、くっきりとした


鮮明な遺体が鮎人が立っている


テーブルの少し先の床に


転がっているのが見える――――


「(中井出―――....)」


「おい! もう"死体"は出たか!?」


「・・・! あ、ああ...」


「ぼーっとしてないで、


 こっちに何か状況を伝えろ!


 そのゴーグルで見て


 何か分かる事は無いか!?」


「・・・・!」


まるで、今この瞬間に事件が起きた様な


凄惨(せいさん)さの残る、中井出の遺体を見て


鮎人は思わず言葉を止める


「胸の辺り――――....」


「胸がどうした!?」


「・・・・」


イは、このオーシャニアクルーズ内で


行われる予定だったゲーム大会のために


事前に撮影していた室内の映像、


そしてそれに合わせて犯行直後に撮影した


室内の映像をVR用に編集した映像を


鮎人が見ているのを確認すると


鮎人に向かって声を上げる


「胸の辺り―――... これ、刺し傷か―――?」


「刺し傷―――....」


「(・・・・)」


今にも、手で触れる事ができそうな距離にいる


中井出―――....


「(刺されて、逃げ回ってたのか―――)」


実際には存在しない、VR空間内で横たわっている


中井出の遺体を、鮎人はまるで


犯行直後に駆けつけて来た


鑑識の捜査員の様な態度で何か、


犯人に繋がりそうな情報が無いかと


丹念に見る―――


「・・・この、中井出、逆再生―――...


 "復元"出来ないか―――」


「"復元"か―――....」


"カタタッ!"


「ふ、復元って―――」


澪が二人の会話に驚いた様子を見せているが、


イは、鮎人の言葉にパソコン内に表示されている


中井出の遺体にマウスを合わせると、


犯行前の室内の映像、そして、3Dモデリング表の


人の倒れ方が何万と記録されている


記録情報の中から、その情報と


中井出の倒れ方を照らし合わせる―――


「・・・・!」


"グゥゥゥウウウウウウ――――...."


「どうだ・・・?」


"カチャッ カチャチャチャチャチャッ"


「(中井出――――)」


"ギュイイイイイイイイイイ...."


「ど、どうなの!?」


「・・・起き上がったか?」


イが、3Dモデリング表を利用し合成した


中井出の倒れた姿をパソコン内で逆再生すると、


鮎人の目の前に倒れていた中井出の遺体が


まるで糸の切れた人形の様に


ゆっくりと立ち上がる...


「これ、正確なのか―――?」


「・・・ある程度、正確だと思う―――....」


"グィィイイイイイイイイイ...."


「(――――!)」


天井から何かで吊るされている様に


不自然な動きで立ち上がった中井出の遺体に、


鮎人はゴーグルの下で目を細める――――


「この倒れ方からすると、


 あまり勢いよく倒れこんだ


 感じじゃないな...」


「・・・って事は、やっぱり、


 今回も犯人は女って事か――――?」


「・・・どうだろうな。


 犯人の方は出せるか?」


「・・・勿論だ」


"カチャッ カチャチャチャッ....タンッ!


「(体が、細いな――――....)」


"ブワァアアアアアアアア――――"


「・・・出たか?」


「・・・ああ」


"ドンッ!"


「(あれ、この顔―――)」


「どうだ!?」


「い、いや―――」


「・・・どうしたんだ!?」


「(この顔――――)」


「何だっ!? はっきり言え!?」


「(これは・・・)」


"ジィィィィイイイイイイイイイ...."


「(まさか――――)」


"ジィィイイイイイイイイイ――――"


「・・・・」


イが中井出の倒れた状況から


3Dモデリングを使って作り出した


おそらく、女だと思われるあまり鮮明ではない


表情をした立体映像を見て、


鮎人の頭に既視感が浮かんでくる―――


「これって、まさか―――!」


「・・・!


 あ、ああ、少し顔の表情が


 おかしかったみたいだな」


"カタッ!"


「(―――今のは...)」


"ジッ ジジッ―――


「(気のせいか―――?)」


「・・・今度はどうだ?」


「・・・ああ」


目の前に現れた犯人だと思われる、


イが出した女の映像に鮎人が


少し戸惑った様な表情を見せていると、


イは、すぐに自分が作成した


3Dモデリングで作り出した


犯人の立体映像を別の映像に差し替える


「・・・・」


「今度はどうだ―――!?」


「あ、ああ、ちゃんと見える」


「・・・そうかっ」


「(・・・・)」


"カチャ"


「・・・やっぱり、犯人は女って事か?」


「(・・・・)」


"カチャ"


鮎人は、掛けていたゴーグルを外すと


イの隣で心配そうな表情を浮かべている


澪に目を向ける


「ど、どうだったの――――?」


「いや・・・・ 


 やっぱり、犯人は、"女"みたいだ―――」


「女の人・・・!」

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